第12話

美琴の部屋の中が赤い光に染まっている。


希夢はその光にぼんやり目を開き、見えているのが天井であると認識すると、美琴の眠っている側のカーテンに映る朝焼けの光に目を向けた。


朝か…


昨夜は希夢も美琴も布団に横になると、幼い頃の話をしかけたが、知らない間に眠ってしまっていたようだった。


希夢は暫くカーテンに映る朝焼けを見ながら思いにふけっていた。


寝返りをうった美琴が、希夢の気配に気付いたのか、虚ろな目をして

「おはよう…希夢」呟くように言うと、

大きく伸びをしながらアクビをした。


「おはよう…ミコ…今日は工房を調べてみようと思うんだ」


「うん!私もそのつもり」

と頷き合った。


「あたし、朝食の準備しとくからシャワー浴びて来て」


「うん、分かった!」


 バスルーム前の洗面所には、琴絵が希夢の為に用意したであろうタオルと歯ブラシが置かれていた。


 美琴はいつになく手際良くベーコンエッグを作り、食パンをトーストし、コーヒーをドリップした。そして、母を起こさないようにと盆に乗せ、

普段はパタパタ鳴らすスリッパも静かに滑らすよう足を運んで部屋に持ち込んだ。


 希夢がバスルームを出て来る頃には、テーブルにその全てを並べ終えていた。


「はい、交替!食べといてね」


 美琴は脱衣所を出てきた希夢とすれ違いざま囁くように伝えると、身をひるがえし脱衣所に入りドアを閉めた。


 希夢は、すぐ隣にあるバスルームから微かに聞こえてくる水の音をぼんやりと聞きながら、手に取ったトーストをサクリと齧った。

 やがて、キュッとバルブを絞る音と共に水の音が止み、低くドライヤーの音がしてくる頃には希夢も食事を終え、コーヒーの最後の一口に喉を反らせていた。すると、まだ乾き切っていない髪をポニーテールにしながら、美琴が部屋に戻ってきた。


「さ、行くわよ〜」

と冷めかけのコーヒーをひと口飲み、皿のベーコンエッグをトーストに乗せると二つ折りにしてガブリとくわえた。


「相変わらずワイルドだな」


 美琴は琴絵宛の走書きをテーブルに残すと、玄関で靴紐を縛っている希夢の元へ走った。


「お待たせ!」


「よし行こう!」


希夢と美琴は玄関を出ると静かにドアを閉め鍵を掛けた。


軽やかに外階段を下ると、まだ朝焼けに染まる通りに出た。


「綺麗な空だね」


「うん、とっても綺麗!」

 伸びをしながら美琴が答えた。


 歩道の桜並木の花も赤く染まっている。


「工房では何を探すつもりなの?」


「分からない…けれど片っ端から調べるよ」


 希夢は、父親の面影と母親への思いを心に秘め、熱くなる使命感にそっと胸に手をあてた。


 通りを隔てた車の中から、金森が腕組をし、じっと見ている。二人の思いは希夢の生家へと向き、それには気付く由もなかった。


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