第8話
希夢は靴も並べて脱げない程、美琴に手首を引っ張られ、リビングへと入った。
狭いながら対面キッチンのあるリビングは、小ぶりなテーブルを挟み二人掛けソファーが並べてある。
美琴は、希夢を右側のソファーの奥に押し込むように座らせると…
「ちょっと、待ってて!」
と、バタバタと別室に走り…また、バタバタと戻ってきた。
ドンとテーブルに置いたのはアルバムだった。
側で眺めていた琴絵は
「母さんの質問はどうなるのよ~?もう…」と、呆れ顔をした。
「良いじゃない!希夢疲れてんだから、思い出話で癒やしてあげるの〜」
美琴は、子供の頃から天真爛漫で、それは34歳の今になっても全く変わってはいなかった。希夢も苦笑いしながら、それでも嬉しそうに開かれるアルバムに見入った。
アルバムの最初のページには、赤ん坊の美琴と抱いている琴絵。写しているのは父親か…写真の外枠から手を振っているピンボケの左手が写り込んでいる。
美琴が希夢の顔を覗きにっこり笑う。
「可愛いでしょ?あたし」
2ページ目からは、希夢と母親ののぞみ、父親の和也も一緒に写っている。
「え!この人…?!」
その横に貼ってある縦長の一枚。希夢を抱いて写っている人物を指差す。
「琴絵ねえさん!この人誰なの?!」
髭も無く若いが、確かに東京のアパートを訪ねてきた、あの金森氏なのだ。
「なぜ?なぜここに…」
パタパタスリッパを鳴らし琴絵が近付きながら…
「忘れちゃったの?希夢ちゃん…あなた、良く遊んでもらったのよ〜」
希夢はしかめっ面で必死に思い出そうとした。
「3つくらいの時だもんね、覚えてなくても仕方ないかぁ〜」琴絵が付け加えた。
しかし…どういう事なのか…?あの日、知らずにアパートに訪ねてきたのか…?偶然にしては出来過ぎている。希夢は妙な疑念と不安感をおぼえずにはいられなかった。希夢が考え込んでいると…
「何、深刻な顔してんのよ〜!これこれ…覚えてる?希夢が何で泣いてるか~」
美琴が気にかけ話題を変え、幼い美琴と希夢が並んで写っている写真を指差した。希夢が右腕を目にあて泣いているようだ。二人共着ている服が泥んこだ。
小学生の頃か…?
希夢が記憶を辿っていると
「希夢が同級生にイジメられてるのを、あたしが助けたのよ〜!エッヘン偉い美琴でしたあ〜」と先に言われた。
他の写真も見せられ、盛り上がっている中でも、希夢は金森氏の事が気になって仕方がなかった。最初から自分を知っていて訪ねて来て、一千万もの大金を置いて帰って行ったのか…?赤ん坊の時から知っている…?親戚なのか?
想像し考えていると、とてつもなく眠気が襲ってきた。
「あ〜れえ〜?希夢〜?」
いつの間にか希夢は、横に座っている美琴の肩にほっぺたを付けて眠っていた。
「寝かせといてあげたら〜?」
琴絵が優しい顔で言うと、美琴はこくりと頷き、そっと肩から膝に希夢の体勢を変えてやった。
琴絵も奥から毛布を持ってくると、ふんわり希夢に掛けてやった。
希夢は、静かに寝息をたてていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます