第5話

 男は閉められたドアをポカンと見つめていた…

その視線をシューズボックスの上の札束に向けると、眉をひそめ「マジで…?」と呟いた。


 手に取ると…重い。これまでに体験したことの無い紙幣の重みだ。

 パラパラと本のページのように繰ってみる…全部本物だ!


 夢ではないかと、今度はほっぺたをその札束でペシペシと叩きながら奥の四畳半の部屋まで歩く。窓際のベッドに腰を掛け、じっと札束を見詰めると、もう一度呟いた。「マジ何これ~!?」

 ベッドに身体を横たえ、その札束をペラペラしながらボーっと眺め続けた。


 そのうち男は胸の上で札束を掴んだまま、また眠りに落ちていた。朝のTVでの驚き、石を探して見つからなかった絶望、そしてこの謝礼の札束…あまりに多くの信じられない出来事に疲れ果て、気を失うように眠りに落ちたのだ。



 

 男は夢を見ていた。それは遠く幼い頃の記憶であった。


 丸く白いテーブルに、今は亡き若き日の母親が、宝石箱を開きオルゴールを鳴らしている。トロイメライ…静かに奏でる曲。微笑みを浮かべ見詰める先には、幼い頃の男とその父親がいた…。母親が宝石箱の蓋を閉めると、その表面には美しい装飾が施されていた…。が、しかしその蓋の中央には、あったはずのが取り外されたような楕円形の穴がある。そして隣りに居た父親も、いつしか消えてしまっていた。…そこで男は目が覚めた。


 はっ、と男は起き上がると、押入の奥のダンボール箱を引っ張り出した。そして色々な物が雑然と入れられたその中から、長年仕舞いこんだままだった母親の形見の宝石箱を取り出して、その記憶が蘇ったことを確信した。その時、男は意を決した。故郷へ帰ろうと…「確かめなければ…前には進めない!」男はそう呟いた。


 


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