第2話
男は古びた木造アパートの一室に暮らしている。ここに来て何年が経つのか、そんな記憶を辿ることさえ既に無くなっていた。
職は点々とし、今朝も、生きる為の金を稼ぐ…ただそれだけの目的で、面接会場へ向かう仕度をしていた。
ヨレヨレのワイシャツにジャケット、擦り切れてシミの付いたネクタイ。面接に合格するはずも無かった。知っていながら、そんな毎日を半ば無意識に過ごしていた。
時計がわりに点けていたテレビから、元気なMCの声がする。
「なんと、これを手にした人達は、ことごとく大富豪に!?これが奇跡の石、希望石です!」
何気なく聞いていた男はネクタイをいじりながら、ちらりと画面に目をやった。そして、二度見した。
「え〜っ!!こ…これは!!」
その番組では、数日前の夜に街灯の脇で男が手に取った、あの玉虫色に光を放つ石の写真が紹介されていた。その石を持つ者には、なぜか大金が流れ込むといわれ、元所有者には名だたる富豪の名前が連なっていた。そして、その石は現在行方不明だという。
男はいじっていたネクタイもそのままに、目をキョロキョロさせ数日前のあの場所の記憶を必至にさかのぼっていた。そしてとうとう居ても立ってもいられなくなり、部屋を飛び出して、あの石を投げ捨てた場所へと駆け出していた。
あの石さえあれば、今の貧乏生活ともおさらば出来る!その思いと、どうしてあの時石をポケットに仕舞い込まなかったか!?という後悔の念が気持ちを焦らせ、男はその場所へと息が切れんばかりに走り続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます