希望石

トシヒコ

第1話

 男が一人、とぼとぼ夜道を歩いている。

その男からは、生きる希望などというものを、全く感じ取ることが出来ない。

 疲れ果てた顔をし、ヨレヨレの白いシャツに少し緩めたネクタイと折り目の取れたスラックス。

 

 立ち止まるたびにため息をつき、ジャケットを片手に掴み肩に掛け、うつむき加減に歩いている。


 ふと男は道端の薄明るい街灯の脇に、何か光るものを見つけた。…近付き拾い上げる。

 

 中ぐらいの玉砂利ほどの石?

 それは汚れてはいるものの、白濁した表面には内部から玉虫色の光をわずかに放っていた。


 男は立ち尽くしたまま、暫く街灯の明かりに透かすやらズボンに擦るやらして、それを眺めていたが、やがて飽きたようにポイと行く先も見ずに投げ捨ててしまい、そのまま歩き出した。


 数日後、男はその石が、“とてつもなく金運を招くとされる宝石”であることを知る事となる。

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