8話:真実を



「……父さん」


 僕は、料理長の話を聞いて書斎に来た。重たい扉を叩くと、中から父さんの声がする。取っ手を持って開けようとすると……。


「おや、坊ちゃん!お久しゅうございます」

「……ロゼ」


 そこには、先週と変わらずなロゼの姿が。

 よかった。急に担当変えちゃって、心配だったんだ。……なんて、僕が言えることじゃあないな。


「なんだ、シャロン。入りなさい」

「失礼します」


 奥で、父さんが笑っている。

 ロゼに背中を押され入ると、


「コンサートの調子はどうだ?」

「……まあまあです。ミハエル先生は、あと少しと」

「そうか!ミハエルがそう言うなら、期待しても良いね」

「……頑張ります」


 プレッシャーをかけてきてる?いや、父さんはいつもこうやって応援してくれる。でも、僕にとってはプレッシャーの何物でもない。期待に応えられなかったら、どうなるんだろっていつも考えちゃうよ。


「坊ちゃんならできますよ」

「……うん。ロゼ、ごめんね」

「なにがでしょうか?」

「急に担当変えちゃって。ロゼは悪くないんだ」

「……」


 そう言うと、ロゼがこっちをジーッと見てきた。いや、父さんまで!

 なんだよ、こっちは必死になって言葉を口にしてるのに。なんだか、顔が熱くなってきたぞ。


「今日から、また担当してくれますか」

「はい!喜んで」

「…………う、うっ」

「坊ちゃん!?」


 即答だった。

 むしろ、僕が話し終える前に返事したような?気のせいか。

 僕は、安心して泣いてしまった。泣くつもりなかったんだけど。涙が止まらない。


「あらあら、坊ちゃん。なんですか、よしよし」

「はは。シャロンは可愛いな」

「……」


 すると、ロゼが僕のことを抱きしめてくれた。ヒューマロイドだから、体温はない。でも、今の僕には温かい。


「ロゼ、ごめんね。アーロンから、アイリスさんが活動停止したこと聞いて。その時、ヒューマノイドはご飯を食べないって言われて、ロゼが僕に嘘ついてるのかと思ったんだ」

「坊ちゃん……」

「でも、さっき料理長からロゼが僕のご飯監視したりチーズ食べたりするの聞いて。ごめんね、疑って。怖くて聞けなかったんだ」


 ロゼの胸の中でそう言うと、さらに強い力で抱きしめてくれた。少しだけ、お花のような香りがする。それは、1週間離れてただけなのになんだかとても懐かしい。


「……ロゼ。シャロンに話そうか」


 すると、奥で書類を整理していた父さんが声をかけてきた。それを聞いたロゼが、少しだけ身体を固くするのがわかった。


「……はい。旦那様にお任せします」

「シャロン」


 ロゼは、手を引いて父さんのところまで連れてってくれる。なんの話だろうか。僕には見当もつかないよ。

 父さんは、立ち上がると僕の向き合ってきた。その周辺の書類が1束崩れたが、気にしていない様子。それを、素早くロゼがまとめあげる。


「シャロン、聞いてくれ」


 父さんがなんの話をするのか、見当もつかない。




「ロゼは、あと1週間で活動停止するんだ」




 ……いや、わかっていた。

 料理長の話を聞けば、わかるよ。悲しそうな顔、してたもん。わかってる。

 だから、ああいう言い方したんだ。わかってたよ。見当はついてた。


「……嘘」


 でも、口から出た言葉はそんな思考とは真逆のものだった。


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