2章:本当のことを教えて?

4話:コンサート本番までお預けだよ!



「シャロン!」

「アーロン、久しぶり!」


 次の日。

 アーロンが遊びに来た。最後に会ったのは、ロゼが庭にある落葉樹の剪定をしていた時だったから2ヵ月くらい前か。

 その見事な剪定鋏さばきに、一緒に来ていたアーロン父が感心してたっけ。僕も、誇らしかったのを覚えている。

 僕は、ロゼと一緒に玄関で彼を迎え入れた。


「これはこれは、レディ・ロゼ。ご機嫌麗しゅう」

「はい、お久しぶりでございます。アーロン様はお元気でしたか?」


 ほら、また始まった。会うと、すぐこれだよ。

 アーロンおんなたらしは、すぐにロゼの前に跪いて手の甲に口づけをする。もう見慣れてしまった。


「はい!レディ・ロゼのお姿が見えない日々、苦しゅうございました」

「ふふ、アーロン様はお上手ですね」

「いえいえ、誰にでもやっているわけではございませんよ」


 よく言うよ。

 僕は、その言葉が聞いていられなくなって、開け放たれている玄関から外を見た。すると、いつも一緒にいる人物がいない。


「……あれ、今日は1人で来たの?」

「門前まで執事付きだったけどね。シャロンもピアノのコンサート出るって聞いて、父様から許可いただいたんだ」

「へえ。じゃあ、音楽室行こうか」

「ああ!練習の成果を見せてやる!」


 どうやら、1人で来たらしい。

 手持ちの鞄をバンッと叩いているのを見る限り、そこに楽譜が入っているようだ。だったら、もう少し大事に使わないと。


「レディ・ロゼ。一緒に来て、俺たちの演奏を聞いてくださいな」

「うーん。アーロン様、それは難しいですね」

「なぜ?」


 そうそう。ロゼと約束してるからね。

 僕は、その会話を聞きつつウンウンと頷く。すると、


「坊ちゃんが、本番当日に聴いてほしいと。今聴いたら、それが叶わなくなってしまいますので」

「……ふーん。カッコつけー」

「お前に言われたくない!」

「坊ちゃん、言葉遣いには気をつけてくださいね」

「はは!言われてやんの!」

「アーロン様もですよ」


 あはは。ざまあ見ろ!……僕もか。

 僕は、ロゼの言葉にシュンとする。きっと、僕が今大人だったら「お給金」も引かれたに違いない。チーズが薄くなっちゃう!


「レディ・ロゼの言うことなら、素直に聞けますね。貴女は本当に素敵な方だ」

「……ちょっと、僕のロゼ口説かないでよ」

「ふふ。ほら、練習するのでしょう?お時間が勿体無いですよ」


 そうだそうだ、早く離れろ!いつまで手を握ってるんだ!

 そう言おうとしたが、どう考えても口が悪くなってしまう。僕は、その言葉を喉元でグッと飲み込む。


「そうですね!じゃあ、シャロン。行こう!」

「うん、行こう!今回、難しい曲やるんだ!」

「俺だって。弾き合いしよう」

「では、私は後ほどダイニングへおやつをお持ちしますね。休憩される時は、お声がけください」


 汚したり臭い移りしてしまったりするから、音楽室で食べるわけには行かないのだ。

 ロゼはそう言って一礼すると、開けっ放しになっていた玄関の扉を閉めに行ってしまった。それを横目に、僕たちは音楽室へと向かう。


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