第16話スターレイン(3)
「私の名前は
やっぱり夏子お婆ちゃんだ…。
私と同い年ぐらいの女の子を見て私はそう確信した。
「えっと…」
そうだ私の名前って言っちゃいけないよね?
だったら…
「私はHANAです…」
そう名乗る事にした。
「はなちゃんって言うのね。とても綺麗な名前ね。」
「あ、あの!鷹宮夏子って伝説のアイドルの鷹宮夏子…さんですよね?」
私は目の前の現実を認めたくないのか、そんな変な質問をしてしまう。
「伝説?…かは、分からないけどアフタヌーンガールズと言うユニットは組んでるわ。私の事知ってるの??」
あ、そうか、、伝説ってのは私の時代で言われてるからまだこの時代では普通のアイドルなんだ。
って!!!そうじゃないでしょ!!?
なんで20年前の筈が70年前の世界に来てるの?
私はそんな疑問を抱きながらも会話をする。
「勿論知ってますよ。アフタヌーンガールズのリーダーをやってますよね?」
確か夏子お婆ちゃんは2007年とかぐらいにデビューしたから2010年だと絶頂期の筈だ。
「えぇ、運が良くリーダーをやらせてもらってるの」
「ところで何をしていたんですか?」
目の前の女の子…私のひいお婆ちゃんは、時刻も21時になろうとしてる時間に青のジャージ姿をしていた。
公園の真ん中で、夜遅く何をしているのか気にならない方がおかしい。
「あ、そうそう。ライブをやるからダンスの練習をしていたのよ」
なるほど…私も歌手だから外で練習する気持ちは分かる。
特にこの公園は周りに家がないから近所迷惑にもならないだろうし
「ライブっていつやるんですか?」
「明日は大晦日でしょ?年越しライブをするのよ」
「明日!?だったら稽古場とかで練習しないと風邪引いたら意味ないですよ!!」
「大丈夫よ。それよりお願いがあるの」
「お願い??」
「今から歌うから感想もらって良いかしら?」
えっ!?夏子お婆ちゃんの生歌!?!
伝説のアイドルと言われた人のパフォーマンスが見れるの??
同じ歌手としては絶対に見ておきたい!!!
こうして私は公園の中にあるベンチに座り夏子お婆ちゃんのパフォーマンスを見る事にした。
夏子お婆ちゃんは{ふぅ…}と息を吐き気持ちを作る。
長くて綺麗な黒髪、青色のジャージ、手には何も持ってないがマイクを持ってるフリをする。
靴も運動靴だしアクセ類もしていない。
目の前には至って普通の女の子が佇んでいた。
そして―――
―――数秒の間が経った時
―――夏子お婆ちゃんは動き出した―――
頭の中ではメロディーが鳴ってるのだろう。
夏子お婆ちゃんは自分のリズムで左右に動く。
そして
「スターレイン♪輝く星の数〜♪迷い道 照らし続け 君を導くよ〜♪」
夏子お婆ちゃんは歌い出すのだった。
※
「ありがとうございました」
そう言って一礼する女の子。
私は気付けば涙を流していた。
歌を聞いて…いや、歌う立場でもこんなにも心を動かされた事はなかった。
歌なんてただ歌詞をそのまま歌うだけで良いと思ってた。
実際そんな自分が歌姫なんて呼ばれる迄に出世したのだからそれで合ってると思ってた。
でも違った……歌はこんなにも人の心を動かすんだ。
思えば私は何で歌手を始めたんだろう。
15歳の頃に街中でスカウトされたのがキッカケだった。
最初は遊び半分な気持ちもあったのかもしれない。
でも事務所が本気で私をプロデュースしてくれたおかげで、私はスカウトされたその年にデビューした。
デビュー曲も売れ、人気も爆発して2ndシングルも3rdシングルも売り上げ1位を叩き出した。
そして17歳の時に私の武勇伝となる1〜10(ワンテン)プロジェクトが始動する。
このプロジェクトは音楽ダウンロードランキング1〜10位を全て私で埋めると言う物だ。
その為の第一ステップとして毎週新曲を出すと言うのを2ヶ月やった。
それら全ての曲は初登場1位を出し続け、12枚目のシングルを発売した所でワンテンプロジェクトが成功した。
この功績は日本初で私は瞬く間に歌姫へと出世した。
気付けば戻れない所に登ってしまっていたんだ。
そんな時だった。19歳の頃、私が鷹宮夏子の血筋だとバレてしまう。
そして世間は納得するのだ
「あの伝説のリーダーの曾孫だからね」
「伝説のアイドルの血を引いてるんなら納得!」
私の苦労や努力は全て血筋の一言で片付けられてしまった。
私は鷹宮夏子を知らないのに鷹宮夏子が纏わり付いてくる……それがどんなに気持ち悪い事か誰も理解はしてくれないだろう。
だから私にとって歌は、ただ歌詞を読むだけの行為に成り下がってしまった。
それがどうだろう。
歌を聞いただけで、私は心を動かされている。
自然と涙が出ている。
目の前の女の子はジャージ姿のただの女の子の筈だ。
でも歌っている彼女は、綺麗な服を着てライトが入り混じる舞台に立っていて
周りには何千と居るファンの人達。
どこにでもある様な公園が、豪華なライブ会場になったかの様に錯覚させる。
彼女が凄いのは歌声だけじゃない、ダンス一つ一つの所作さえも人を魅了する。
これが伝説のアイドル――
――これが私のひいお婆ちゃん
「どう…だった?」
夏子お婆ちゃんのその問いに私は
「とても感動しました」
そう答えた。
「それなら良かったわ」
そう言って笑顔を見せる夏子お婆ちゃん。
私は流れてくる涙を拭き心を落ち着かせる。
「歌って凄いでしょ?」
{クルッ}と後ろを向いて夏子お婆ちゃんは言った。
私は何も言えないままでいた。
「歌にはね心を動かす力があるの。私の夢は世界中の人を私の歌で笑顔にする事!」
そう言いながらその場で両手を広げて一回転をする。
「素敵な夢ですね」
私は何とか言葉を絞り出しそう言った。
そう言った後、夏子お婆ちゃんが{クスクス}と笑い出す
「ふふふ」
「どうしたんですか??」
「ちょっと思い出しちゃって」
{クスクス}と笑い続ける。
「何を思い出したんですか?」
「昨日ね?メンバーのミーナが杖をついたお爺ちゃんを見て素敵なステッキって言ったのよ。それが妙に面白くて……思い出しちゃったの。クスクスクス」
あーうちの家系がダジャレ好きなのって血筋なんだなぁ…
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