第2話 「孤高の夢」



 エジプト、ギザの三大ピラミッド上空より、小型小惑星が墜落したのは、僕があの奇妙な夢から目を覚ました二日後のことだった。



 NASAアメリカ航空宇宙局は、隕石の墜落をその瞬間まで観測できていなかった。というのも、とりわけ技術力不足という訳ではなく、地球に降り注ぐあまたの粉微塵の数を考えれば必然であった。しかし数人の負傷者は出た。



 一つ奇妙な点を挙げるとするなら、観光客が撮影した写真は、マスメディアに取り上げられることは無かった点。また、SNSに上げようものなら、たちまち削除されてしまう点である。


 もう一つ奇妙な点があった。


 回収された隕石は、ネバダ州南部の最も有名な一区域、つまりエリア51へ回収された。

  

 公にはされていないが、政府はこの事実を隠そうとしている。これには、各界隈のオカルト信者たちが我先にと持論を展開し、やれ宇宙人だの、やれ未確認飛行物体だのと騒いでいた。



 ちなみに、このニュースはあの後、僕がツイッター上で集めたものなので真偽はわからない。


 興味深い話であったが、しかし最も気になるのは、そんな世間のトレンドなどではなく、おとといの夜、自分が見た夢の真相についてであった。



 隕石も陰謀論と結びついていて、調べれば面白そうではあるが、それは後々になって真相は分かることだろう。でも、自分自身に関することは、自分自身で追及するしかないのだ。



 あのどこか懐かしい幻想的な世界は、いったい、どこにあるのだろうか。例の黒髪の少女と、もう一度、お話をすることはできないのだろうか。という疑問が、僕の頭の中に張り付いて取れなかった。



 夢を見た後は、すぐに忘れてしまわないようにと、僕は机の引き出しからノートを一冊だけ取り出して、夢日記にしたのを覚えている。日頃から夢日記を付ける習慣はなかったけれども、どうしても記憶に留めておきたかった。


 僕がしばらく夢日記と向き合っていると、スマホの画面が明るくなって、手に取ってメッセージを確認すると、悠人のお母さんからの連絡だった。この時間帯に連絡をくれるのは、エミさん自身が朝方の人間なのか、僕に合わせてくれているだけなのか。



 悠人のお母さん(エミさん)は、今スピリチュアルカウンセラーの仕事を始めようとしている。


 そうして僕も、今週の土曜日モニターとしてその手伝いをすることになっている。怪しい、とか、宗教色が強い、とか言われればそれまでかもしれないが、日本を含め、世界は宗教と共に発展してきた歴史があり、非科学的なものを排除しようとするのは、良くないことだと僕は思う。それにスピリチュアルと宗教は根本的に違う。





 高校二年生の春の季節のことだった。本日は例の土曜日。時刻はまだ朝の五時を回っていない。



 僕は寝ている両親を起こさないように、ゆっくりと外に出た。マンションの九階、この場所はいつでも景色が良い。僕はなぜか急に、空の景色を見たくなったから、しばらくボケッと遥か上空を眺めて、心を無にして物思いにふけっていた。



 長い夜が終わりを迎えようと、空が水色に変わっていく。そこに白い月が浮かぶ。下のほうで桜の花びらが散る。春のにおいがする。始発の電車の音、鳥のさえずり、車の音、ジョギングしている人のくしゃみまで、ハッキリと聞こえる。



 僕はエレベーターで一階のエントランスまで行くと、自販機で缶コーヒーを一本買った。それを持って九階まで戻り、景色を眺めながら口にするのが日課だった。

「モニターかぁ」



 そう呟いてからまた空を見た。うっすらと引かれた雲に朝日が照る。カラスが鳴いている。朝を知らせる心地いい鳴き方だった。

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