第五十八時限目

空高く舞い上がる小さい物が、あたしの目の前へと飛んで来る。





「わっ…」




「落とすなっ!」





それはあたしを通り越して窓の中へと入り、繊細な音を立てて床に転がった。





「何…?」




あたしはそれを広い、目にした途端無我夢中で拓の元へと走った。





「拓っ…!!」




「婚約指輪だよ」





握り締めていた指輪を抜き取り、拓があたしの左手を掴む。





「約束するよ」




「……」




「絶対幸せにする」





あたしの薬指で綺麗に輝く婚約指輪。





「返事はくれないの!?」




「……」




「だから泣くな(笑)」




きつくきつく抱き締めてくれる拓に包まれ、あたしはありったけの想いを拓に伝えた。





「好きだよ…」




「うん」




「本当に大好き…」




「俺は愛しちゃってるけどね」





あたしの頭にアゴを乗せ、拓が悪戯っぽく言う。



「受けて立つよ…」




「え?」




「関白宣言っ!受けて立ってやる!!」




「…あのさ結芽」




「ん?」




「産まれて来てくれてありがとな」




拓が叶えられなかった夢。




「あたしも…拓のお母さんにありがとう言わなきゃね」




サンタクロースに願いを託した夢…




この先あたし達に新しい命が芽生えて、その子が小学校に入学した時、あたしと拓はその子の手を引いて門をくぐる。




拓の手を引いてあげる事は出来なかったけれど、今度はあたし達が手を引いて我が子の道を開いてあげる…




そんな新しい夢が、過去の拓の夢を乗り越えてくれるとあたしは信じてるよ…?





「拓!結芽ちゃん!」



昇降口から桂太君と菜緒がゆっくりと歩いて来る。





「結芽」




「何?」




「菜緒、今日から名字が『中山』だぞ」




「…えぇーっ!!」




あたしの叫び声に反応し、走って来た桂太君が慌てて拓の口を塞いだ。





「お前っ、俺達の口から言わせろよ!」




「え!?桂太君と菜緒も結婚!?」




「結芽ちゃん…ごめんね?隠してて。なんか4人一緒に幸せを味わいたいじゃん!?」





2人の薬指に光る夫婦の証…





「でさ、もう一つ報告が…な?菜緒」




「うん…実は秋に赤ちゃんが産まれるの」





あたしの思考回路は一旦停止。





「…本当に!?」




「うん」




「……」




「結芽…?」




「…よ、よがっだぁ~」




「ち、ちょっと拓っ!結芽をあやして!!」



「えー…、結芽、オムツ交換すっからパンツ脱げ」




「セクハラするなーっ!!」











あたしの恋物語。




あたしがした恋はきっと間違いなんかじゃなかった。






貴方は誰の為に涙を流しますか…?



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