第五十七時限目

あたしは拓から貰ったネクタイを首から外し、手際わ良く拓の首に巻き付けた。





「結芽っ、教室でこんなプレイはちょっと…」




「どんなプレイだよっ(笑)」





幸せすぎる中でのケンカ。




そんなあたし達のじゃれ合い部屋に、桂太君と菜緒が手を繋いで現れた。





「結芽ちゃん、一応女の子なんだからさ…」



「結芽、パンツ見えてるよ」





大人の雰囲気をかもし出す桂太君と菜緒を見て、あたしは慌てて身だしなみを整える。





「拓、お前ちゃんと結芽ちゃんに…」




「丁度いいや。お前等立ち合い人やれ」




「あぁ!?何だそれ」



「結芽っ、よく聞け!」





拓があたしを机の上に座らせ、腰を屈めて腕を組んだ。





「何…」




「お前を嫁に貰う前に言っておく」




「…はぁ」



「俺より先に寝るな」



(…ん?)




「俺より後に起きてはいけない」




「ちょっと拓…」




「飯は上手くつく…」



「この野郎、関白宣言じゃねぇかよっ(笑)」




真面目な顔であたしに言い放つ拓に、桂太君が鋭く突っ込みを入れた。





「桂太っ、ケツ蹴るな」



「結芽ちゃんに謝れ」



「お前この曲は永遠なんだぞっ!?」




「…もういい」





ガックリと肩を落としたあたしは婚姻届を丸め、筒の中へとしまう。





「あっ、封印しやがった」




「あんたがふざけるからでしょ」




「…俺帰る」





一気に不機嫌な顔に変わり、拓はスタスタと教室を出て行った。





「結芽ちゃん、これでもあいつなりの精一杯のプロポーズなんだよ(笑)」




「分かってる」




「結芽、追い掛けてあげなよ」



「…うん」





机から降りて荷物をまとめ様とした時、拓が廊下からあたしの名前を呼んだ。





「結芽!」




「へ?」




「バ~カ!!」




「なにぃっ!?」





あたしはバックにしまい込んだ卒業証書と婚姻届入りの筒を思い切り拓へと投げる。





「あっ、外したっ…」



「お先に失礼~」





あたし達にむかって舌を出し、拓は逃げる様に姿を消した。





「なぁ菜緒…拓さ、実は卒業会場間違えてねぇ!?」




「え!?」




「卒園式じゃねぇよな!?」





桂太君がこめかみを抑えながら重いため息を吐く。





「結芽ちゃん、あのさ…」




「何?」




「…菜緒から言えよ」



「だってこんな状況で…」





その時だった。





「あ、ちょっとごめん



またしてもブレザーの中で振動するあたしの携帯。



「電話!?」




菜緒が携帯の画面を覗く。




「あ」




「え?誰!?」




「最低男…」





あたしは荒っぽく通話ボタンを押し、気だるい声で電話に出た。





「何!?」




「廊下から外に顔出せ」




「嫌」




「はい10、9、8…」




(なんなのこいつ…)





自分勝手な拓に腹を立てながらも、結局あたしは廊下に出て窓から顔を出した。





「よっ、結芽」




「うるさい」




「怒ってる?」




「用が無いなら切るよっ」





松の木の下に座り、拓があたしの顔を見上げる。





「お前に渡したい物があんだよ」




「だから何っ…」





言い終えた瞬間、拓が電話を切り立ち上がった。





「結芽ー!!」




「えっ!?」




「絶対落とすなよーっ!!」


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