第五十五時限目
あたしにとっての卒業式は涙の連続で、小学生の時も中学生の時も、吐き気を催す位に泣いた。
勿論、高校の卒業式もそうなるのだろうと信じていたのだが…
「ん?」
またしてもあたしの携帯がブレザーの中で震える。
「まさか…」
《田村、口もごもごしてる》
(またかよ…)
《いいから式に集中しな!!》
十数秒後…
《ありゃ入れ歯だな》
「ぶっ…(笑)」
その時、タイミング良く田村が大きなくしゃみをした。
「はっくふぬっ…!」
「うわっ、今空気漏れたし」
後ろを振り向けば、しまったと言わんばかりに口を抑える拓の姿。
(あのバカッ…お前が漏らしてどうすんだよっ!!)
拓の周りの生徒はゲラゲラ笑い、そして肝心の田村は自分が笑われている事とは知らず愛想笑いを浮かべていた。
校長の挨拶や卒業生代表の別れの言葉が次々と済み、一人一人が校長から手渡される卒業証書も無事に終了。
結局、最後まですすり泣き一つ聞こえて来る訳でも無く、楽しく愉快なあたし達の卒業式は幕を閉じた。
それから各自教室へと戻りホームルームが開始。
卒業アルバムが皆に配られ、最後の最後まであたしはクラス全員の爆笑のネタとなっていた。
「竹内っ…お前最高だなっ(笑)」
クラスの男子が口を揃えてあたしを嘲笑う。
「は?何が!?」
「早くアルバム開け!」
(何…!?)
本当は、家に帰ってしんみりしながら眺めたかった卒業アルバム。
「お前の顔、この世のもんじゃねぇからっ!」
(えっ…)
あたしは急いでアルバムを捲り、『竹内結芽』と書かれてある自分の写真を見て絶句した。
「あたし…なんでエロ笑いなの…」
何かを企んでいるかの様なうすら笑い。
「竹内、これ拓も見てんだろうな(笑)」
「何かで落ち込んだ時にお前の写真見るわ(笑)」
誰もあたしをフォロー出来ない程の完璧なエロ笑いに担任までもが加わり、そしてそんな流れのまま担任から激励の言葉を貰ったあたし達は、笑いの渦の中で高校最後のホームルームが終了した。
「結芽っ!」
「あ゛、拓…」
あたしが廊下でクラスの子と話していると、拓がアルバムを担いでやって来た。
「お前の顔、うちのクラスで人気だったぞ」
「うちのクラスでもだよ…」
あたしは苦笑しながら2階からの景色を眺める。
「あれ?そういえば桂太君と菜緒は!?」
「あぁ、大事な用事があるみたいですね」
「大事って?」
「さぁ…」
(何だろ…)
いつの間にか拓のクラスはもぬけの殻となっており、乱れた机と椅子があたしを少しだけ切なくさせた。
「なんか…信じられないよね」
「何が?」
「あたし達卒業したんだよ?」
「あぁ…」
あたしは教卓にもたれ掛り、拓は黒板に背中を預ける。
「どうだった?高校生活」
「お前は?」
「…悔いは無しって感じかな」
「俺もだよ」
気のせいだろうか。
春風になびく拓の黒い髪があたしの鼓動を早くさせた。
「これからも一緒に居れるよね?」
「俺と居たい!?」
「…うん」
昨日染めたばかりのあたしの黒い髪を、拓の大きな手が優しく触れる。
「俺の3年間は…お前一色だったよ」
「本当に?(笑)」
「本当に(笑)多分これからも」
拓の顔が近付き、あたし達は教室で最初で最後のキスをした。
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