第四十九時限目
『結芽へ…』
「これ…」
何回も何回も千切って捨てたはずの拓からの手紙。
「何で…!?」
そして一番下の端には『ごめんね』と書かれたお母さんの筆跡。
「テープこんなに使って…」
どんなに大変だっただろう。
どんな思いでこの手紙を繋ぎ合わせてくれたのだろう…
「ありがとうお母さん…」
舞い戻ってきた約束の手紙。
だいぶ遅刻してしまったけど
今更かもしれないけれど
あたしは今拓との約束を果たす為にこの場所にいる。
「お母さんに電話しなきゃっ…」
本当は家に帰ってからちゃんと顔を見て伝えればいい言葉。
でも、せっかちなあたしは今すぐに言いたくて
『ありがとう』
『大好きだよ』
と今なら素直に言える気がして…
(ダッシュで行けばすぐ戻って来れるよね)
気だるい身体を奮い起こし、あたしは手紙を強く握り締めて立ち上がった。
(お母さん今日仕事休みだっけかな…)
痺れる足に軽くゲンコツをし、あたしは一歩前へと踏み出したその時だった…
「桂太、いたぞ」
同じ透明の傘の中から聞こえて来た低い声。
(桂太…!?)
あたしはその声に反応し、後ろを振り向いた。
「…え…?」
「あ゛ー疲れた…」
肩で大きく息をし、その人は傘をたたんであたしの元へと足を早める。
「あれ!?え!?」
「あれ?じゃねぇよ…このアホたれっ」
「た、拓…!?」
懐かしい拓の匂い。
やっぱり、1%の確率って捨てたもんじゃない。
(嘘…)
あたしは汗臭い拓の両腕で痛い程抱き寄せられ、そしてあたしも震える拓の体をそっと抱き締めた。
「あ、あの…」
「……」
「…あのー…」
通り過ぎる車や人々の視線が、公衆の面前で抱き合うあたし達に釘付けになる中、拓は離れ様ともせず全体重をあたしに掛けていた。
「ちょっと聞いてもいい?かな…」
「うるせっ」
「何であたしがここに…いでででっ」
質問を投げ掛けた所で、あたしは骨が折れそうな勢いで拓に抱き締められる。
「ぐっ…ぐるし…」
「お前っ、これからは名前と住所と電話番号書いた段ボール持ち歩けっ!」
「は!?何でよっ!?」
「心配したんだぞっ…!!」
拓のごつごつした大きな両手。
その手があたしの顔をグイッと上に上げた。
「心配って…」
「桂太から携帯ぶっ壊れる程着信が来てて…俺はてっきり説教だと思ってたからわざと出なかったんだ」
(桂太君が…)
「そしたらメールが来てお前が富山に向かったって…信じられなくて桂太に電話したんだよ」
あたしの顔から手を放し、拓があたしの手を掴んで歩き出す。
「え、何処行くの!?」
「喉渇いた」
「でもまだ話の途中…」
「あれ?何だこれ!?」
あたしが手にしていた手紙を、拓がスッと抜き取った。
「わ…ちょっと返してよっ!」
「…俺がお前に書いたやつじゃん」
「ごめんねっ!?その手紙、猫がぐちゃぐちゃにしちゃって…」
とっさについてしまった嘘。
あたしはお母さんのせいで行けなかったとはどうしても言いたくなかった。
「お前が破いたんだろ?」
「……」
「…じゃぁ何でわざわざこんな所に来んだよっ!!」
奪い取った紙を投げ捨て、拓が大声を上げた。
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