第四十八時限目
「飛行…機!?」
曇り空の奥から、体に響く様に聞こえてくる低い音。
「…雷だ」
真夏にはよくある現象。
そう認識した直後、頭上からは大きい粒の雨が地面に向けて降り出した。
「えっ…、どうしよう!?あたし傘なんて用意してないのに…」
先程のコンビニまで行くには多少の距離を歩くはめにはなるが、また同じ様な事があったとしても困る事は無い。
(コンビニ行くまでに十分濡れちゃうけど、一応持ってた方がいいよね)
傘をさす人や足早に道を過ぎ去る人の中、あたしは少しでも早くと思い掛け出した。
息を切らしながらやっとの思いで傘を購入し、依然変わらぬ強さの雨の中、あたしは既に疲労を限界近くまで感じながら元の場所へと戻った。
(今何時だろう…)
もし今日中に拓を見付けられないとすれば明日へと持ち越しになる。
そうなれば泊まる所を探さなければならない…
(探すって言ってもこれじゃ何も出来ないしな…)
和也さんから手渡された金額はバスの往復分に食事代と万が一の時の宿代。
『拓を見付けたられたら拓と泊まればいいよ』
そんな和也さんの言葉にあの時は胸が高鳴ったものの、今では炎天下の中で立ちっぱなしだったせいか酷い頭痛と吐き気がする。
「桂太君は動くなって言ってたしな…あたし、いつまでこうしてればいいんだろ…」
ちょっと前にあたしの側を通り過ぎた若いカップルが、仲良く手を繋いでまたあたしの側を通り過ぎる。
(同じ年位かな?羨ましいな)
透明の傘で顔を隠していたあたしが小さくため息をついた時、微かな笑い声と共にカップルの話し声が耳に入って来た。
「ねぇっ、あの子見た!?あれ何してんの!?」
「知らね(笑)逆ナンじゃねぇの!?」
「あ、待ち合わせしてて振られたとかっ!!」
(知らない土地来て、しかもこんな顔で誰が逆ナンするかっての)
待ち合わせならまだいい。
そのうち、必ず姿を現してくれるとゆう期待が長い待ち時間の苛立ちを消してくれる。
でも
別れてからお互いの気持ちも確認出来ていないままで
拓がこの場所を通る確率が1%あるか無いかの状況で…
もしかしたら、あたしが来た事はやっぱり間違いだったのではないかと、わざと思わない様にしていた不安が頭をよぎってしまう。
(拓…何処にいるの?)
さっきのカップルの男の子が最後の最後に吐き捨てた言葉…
『待ってたって来ねぇよ』
男の子を責めたい訳じゃない。
ただあまりにもその言葉が図星すぎて…
あたしじゃ拓は探せないんだとゆう事が凄く悲しくて…
(あたし出来損ないだ…)
抜けていく力に逆らう事の無いまま、あたしは我慢出来ない頭痛に耐えきれずその場にしゃがみ込んだ。
(なんか寒いな…)
吐き気も限界に近付き、あたしはバックの中からハンカチを取り出して口を防ぐ。
(ダメだ、何かで気を紛らわそう)
そう思い、手にしたのは一冊の手帳。
3日坊主のあたしがこの3年間、飽きずに1日の出来事を細かく記した日記代わりの様なもの。
「3冊目かぁ…卒業まで頑張って続けよ」
手帳の中には菜緒からの手紙や人生初である0点の答案用紙等も一緒に挟まれてある。
「0点かぁ…先生に肩叩かれたっけな…どうせだから思い出に富山に置いてこうかな」
小さく折られている用紙を1枚ずつ広げて確認していた中、あたしはふと見慣れないぐちゃぐちゃの用紙を見付けた。
「こんなのあったかな?」
セロハンテープで補正されたその用紙を広げ、その内容を眺めた瞬間…
傘から流れ落ちる雨と同時にあたしの涙が流れ落ちた。
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