第四十七時限目

「あ、ここでいいです…」





初めて目にする景色をぼうっと眺め、降ろして貰った場所は大きなお城の横にある道路。




「…ありがとうございました」




料金を支払い、あたしはエアコンの効いた車内からまた蒸し暑い日射しの中へと舞い戻った。





「さて…ここからどうしよう」





綺麗な街並みに比例した交通量の多さ。




「まだ午前中だし、ちょっと探索してみるか」





それからあたしはフラフラと道なりに進み続け、途中コンビニで涼みながらも結局また元の場所へと戻って来てしまった。





「ちょっと歩き過ぎたかな…気持ち悪い」




軽い手足の痺れを感じ、あたしはその場にしゃがみ込む。





(ダメだ、暑すぎる…さっきのコンビニまで頑張って歩こう)





重い足を引きずり、あたしはまた時間を掛けて先程行ったコンビニへと向かった。



(あれ、さっきこんなのあったっけ?)





コンビニに到着し、1番最初に目についた物は緑色の公衆電話。





「…試しに…」




あたしはバックの中から携帯電話を取り出し、わずかの可能性を信じて電源ボタンを押した。





「…電源入った!!」




あまりの嬉しさに大声を上げてしまい、田舎娘丸出しのあたしは周囲の視線を痛い程感じつつ、急いで携帯のメモリーから和也さんの番号を探した。





「あった…!早くしなきゃ」





きっとまたすぐ電源は落ちる。




もうこんな奇跡は2度と無いはず…





「小銭なら確か沢山あったよね…」





あたしは公衆電話の受話器を握り、和也さんへと繋がる番号を押した。





(お願いっ…出て!!)




「…はい!?」




「和也さんっ!?」




「え?」




「結芽っ、結芽です!!」




「結芽ちゃんっ!!」




叫び声にも似た和也さんの声と、その後ろからは桂太君と菜緒の慌ただしい様子が伺えた。




「結芽ちゃんっ、今何処!?」




「お城から少し離れたコンビニです」




「そっか…、無事で良かった…」





少し震えた和也さんの声。





「心細かったろ?」




「平気です(笑)それよりあたしはどうしたらいいですか?」




「うん。あ、ちょっと桂太に代わるね」





宮城と富山では、さすがにお金の減りが早い。




あたしは電話が切れてしまわない様、次々とお金を公衆電話に投入した。





「結芽ちゃんっ!!」



「桂太君…」




「このドジ娘っ!!」



「ご、ごめん…」





桂太君の大きなため息にビクビクしながら、あたしは何故か公衆電話に深々と頭を下げた。




「今まで何してたの?」




「探索してました…」



「ずっと?」




「はい…すみません」




穏やかな桂太君が更に穏やかになると、それはある意味危険信号。



「菜緒なんかずっと泣きっぱなしだよ?」




「え?何で!?」




「『もう逢えない』って…」




(え?あたし富山に永住予定だったっけ…)




これからの道に光が見え始める。




あたしは受話器から聞こえる皆の声を点滴代わりに、少しずつ元気を取り戻せた。





「具合悪くない?」




「うん…」




「本当に!?」




「今はもう大丈夫だよ」





(あ…、お金入れなきゃ)




受話器を耳と肩で挟み、あたしは財布の中を探る。





(あれ?全部小さい)




視線を財布の中へと移し確認すると、そこには沢山の一円玉しか残っていなかった。





「桂太君っ、電話切れる!」




「はぁ!?また!?」



「早く次の場所教えて!!」





今考えてみれば、例えば電話を掛ける前にコンビニでお札を小銭に両替えして貰うなり、服にでもいいから番号を控えるなり…




とにかくこんなに焦る事は無かったはず。



何と言うか…もう本当に自他共に認める正真正銘のバカ結芽。




あたしの脳みそは確かにつるつるである事だけは確認済みだった。





「切れるっ…」




「結芽ちゃんいい!?凄い辛いかもしれないけど、今からまた城付近に戻って!!」




「へ?また!?」




「絶対動くなよ!!動いたら宮城への敷居は跨がせない!!」




(そこまで言うか…)





「分かった…」




「結芽?菜緒だよ!!頑張ってね!!」




「菜緒っ!…あっ」





タイミングが良いのか悪いのか…




結局電話はそこで終わりを告げ、コンビニの中に入り新しい飲み物を購入したあたしは仕方なくまたお城付近の定位置へと歩いた。






(あたし、端から見たら変態だよね…)




観光地とも思える場所で、コンビニと定位置の往復のみ。




「あれ、何か雲行きが怪しいかも…」




元気良く顔を出していた太陽が分厚い雲の間に隠れ出す。





そして、運に見放され続けていたあたしは更なる悪夢を体験する事となった。


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