第四十六時限目
「結芽っ!着いたのっ!?」
「あ、菜緒おはよ」
「今何処!?」
「…駅前」
今日も暑くなりそうな1日。
あたしは日射しを避ける為に近くの木陰へと移動した。
「ねぇ、菜緒達寝てないの?」
「…もしもし結芽ちゃん!?」
「…あれっ!?桂太君っ!?」
何処となく渇れた声の桂太君。
(…本当に寝てないのかな)
「大丈夫?」
「へ?何が?」
「声変だよ!?」
「…あぁ、今起きた(笑)」
(爆睡ですか…(笑))
「無事着いたからね」
「財布ある?」
「あるよ」
「体調は?大丈夫?」
「大丈夫だよ(笑)」
その後も桂太君から菜緒、そしてまた菜緒から桂太君へと交換されながら、やっと最後に携帯が持ち主である和也さんへと手渡された。
「…もしもし…」
「あれ?和也さん?」
「…こいつ等うるさい」
未だ電話の向こうから聞こえる菜緒と桂太君の『代わって』の声。
「すみません(笑)」
「お金は?間に合いそう?」
桂太君からも言われ、そして和也さんからもお金の自己管理すら無理だと判断されていたあたしは多少のショックを受けながらも、これからの目的の為に本題へと話を変えた。
「あたしはここからどうすればいいですか?」
「そうだな、とりあえずタクシー拾ってくれる?」
「分かりました」
一旦電話を切り、あたしは近くを通り過ぎた若い女の人にタクシー乗り場を聞いた。
(知らない人にも親切な街なんだなぁ…)
それから歩いてすぐタクシー乗り場に着き、あたしは再度和也さんに電話を掛けた。
「もしもし結芽です」
「あ、結芽ちゃん着いた?」
「はい」
「んじゃぁ…美和っ、この先何て言えばいい!?」
(おいおい…昨日の内にまとめといてよね)
和也さんの背後から美和さんの声がし、あたしをそっちのけで議論が始まった。
(あたし…本当に大丈夫か?)
そう思った時。
「…あっ」
最低最悪の非常事態。
携帯の要充電の音があたしの耳に鳴り響いた。
「じっ、和也さん早くっ!!携帯充電無いのっ!!」
「え゛ぇっ!!じ、じゃぁまず富山城…」
「…あれ?」
あたしの携帯はただの玩具と化す。
「えっ!嘘っ!!もしもし!?」
あたしはいつもそう。
携帯は充電が無くなる寸前まで使う。
しかも、まさかこんな時に充電が切れるなんて予想もしていなかった為、散々無駄話に花を咲かせ、平均より遥かに知能が低いあたしは自宅以外の電話番号は暗記出来ていなかった。
「どうしよう…」
何度電源を入れてみても、全く反応が無い携帯電話。
「富山城…って確か言ってたよね…しょうがない、行ってみよう」
計算が狂い始めた拓探しの旅…
空はこんなにも快晴なのに、あたしの心は台風間近の強い風と曇り空。
「どちらまで?」
「…と、富山城って場所まで…」
使いものにならない携帯電話を汗ばむ手に握り締め、あたしは富山城へと出発した。
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