第四十五時限目

「健兄今何処っ!?」



「秘密っ」




「…忙しいから切るねっ!!」





健兄にバレてしまえばお母さんにバレるのも時間の問題。





(菜緒の作戦が水の泡かぁ…)




「おい結芽」




「…何」




「気をつけて行って来いよ」




「…は!?」





予想外の健兄の言葉にあたしは大声をあげてしまい、反対側に座っていた中年のおじさんに軽く睨まれた。





「お母さんには内緒にしててやるよ」




「な、何で!?」




「元彼探しに行くんだろ!?」




「何で知ってるのっ!?」





やっぱり健兄は侮れない。




あたしは観念して健兄の話を素直に聞いた。




「たまたま実家にいたらさ…」




(たまたまじゃなくてまたまただろ…)




「菜緒って子から電話来たんだよね」




「それで?」




「『結芽を家に泊まらせます』って言うから『本当の事結芽から聞いたよ』って嘘言っちゃった~」




軽いテンポで話す健兄に、あたしは思わず苦笑いをしてしまった。




「何で分かったの?」



「だって普通ならお前連絡よこすじゃん」



(…確かにそうだ)




「でも菜緒って子が『家に泊まる』って言い張るから『じゃぁ結芽に代わって』って言ったの。そうしたら素直に暴露した(笑)」




恐るべし我が兄貴。




自分の嘘は墓まで持って行く勢いなのに、人の嘘は簡単に見抜く。



「…ごめん」




「まぁな。俺もこん位の嘘沢山あるし…、しかしお前べた惚れなんだな(笑)霧島っち可哀想~」




「……」




「まぁ…お前も来年卒業だし、俺は何も言わねぇよ」




最後はいつもあたしの味方になってくれる健兄。




あたしは不本意にも胸が熱くなってしまった。




「お母さんには帰ったらあたしからきちんと説明するから」




「その方がいいな。ま、とりあえず気をつけて行けよ」




「うん、ありがとう」



「帰ったら武勇伝聞かせろ。じゃぁな」





気が付けばバスはもう街を外れ、高速へと繋がる道を走っている。



(ウォークマンでも聴こうかな…)




カーテンの隙間から見える殺風景な景色の中、あたしは大好きな曲を子守り唄にし、いつの間にか眠っていた。



それから何度も目を覚ましては窓の外を確認し、分かるはずもない街並みを見て再度眠りに就くとゆう形を繰り返すあたし。




その間、何度かトイレ休憩を挟む事もあり、その度に和也さんや桂太君達に連絡をした。





『ずっと起きてるから』





その言葉に励まされ続け、あたしは右も左も、そして土地の名前さえも分からないまま何とか無事に富山県へと到着した。





「7時かぁ…とりあえずお腹空いた…」




ある駅前であたし達乗客は一斉に降ろされ、それぞれが慣れた足取りで目的地へと姿を消す。




(とりあえずコンビニで何か買おう)




すぐ目の前にある見慣れたコンビニへ立ち寄り、あたしは軽く朝食を済ませ和也さんに到着の連絡をした。





「…もしもし」




「和也さん!?結芽だよ」





電話の向こうで、和也さんのあくびと共にあかりちゃんの泣き声が聞こえて来る。





「着いたのっ!?」




「うん、朝ご飯食べたからちょっと連絡遅れちゃった」




「ははっ(笑)結芽ちゃんらし…」




途中まで言い掛けた所で、突然雑音と同時に菜緒の声に切り替わった。



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