第四十四時限目

「結芽ちゃんも無理なら無理って…」




「あたし一皮剥けて拓と必ず帰って来るから!」





拓を想って泣いたあの辛さに比べたら




こんなのちっとも苦じゃない





「結芽…本当に大丈夫なの!?」




「ちょっとだけ甘えてもいい?」




「何を!?」




「…携帯だけは肌身離さず持っててね(笑)」



桂太君と菜緒があたしのほっぺを同時につねる。





「そんなの甘えに入らないからっ(笑)」




「道に迷ったらすぐ連絡しな。菜緒とここで待ってるから」




「ありがとう」





今のあたしなら、きっと拓に何を言われても笑える。




笑って『アホ拓っ』って言える…





「いつ向かう?」




和也さんが美和さんからあかりちゃんを抱き上げて言った。





「早速今夜行きます」



「え!?すぐ行くの!?」




「拓、泣いてると可哀想だから(笑)」




「お母さんは!?」





霧島君との幸せを願っていたお母さん。




でも、やっぱり譲れない恋がある。



(ちゃんと正直に話さなきゃ)





「お母さんにはちゃんと…」




「とりあえず2~3日あたしの家に泊まるって連絡しておくね」




笑顔で菜緒が言う。




「結芽は脳みそちっちゃいんだから、今は拓の事だけ考えな!?お母さんはその後っ」




「…あいつに逢えたら、俺の分まで蹴り入れていてね」




「本当に…本当にありがとう」





まだ泣かない。




ちゃんとした答えが出るまでは絶対…





「結芽ちゃん」




「はい?」




「辛い試練与えてごめんな…」




「…愛の鞭でしょっ!!(笑)」




美和さんがあたしの頭を触る。




「結芽ちゃん」




「はいはい」




「拓の手…繋いであげてね」




「…はい」




もうすぐ夕方。




今夜は夜行バスの中で寝苦しい夜を過ごすのだろう。




「とりあえずシャワー借りて化粧させて貰っていいですか?」




「勿論!あ、化粧は美和さんに任せなさいっ!!」




「お願いします(笑)」




拓…




待っててね




必ず見つけるから…





そして夜。




美和さんの手料理を平らげたあたしは富山行きのバス乗り場へと向かった。



和也さんが手配してくれたチケットを持ち、予定時刻丁度に現れた富山行きのバスにあたしは乗り込んだ。





(着くのは大体朝方か…)





意外にも乗客者は沢山おり、若い人からお年寄りまで幅広い人々で溢れ返っていた。





出発時刻を少しだけオーバーし、いよいよバスは富山へ向けて出発。





(あ゛ー窓から紙テープ投げたい気分…)




街中の綺麗なネオンに浸っていた時、携帯の着信が鳴った。





(誰だろう…)




ディスプレイを確認すると、そこには『健兄』の文字。





(うわっ…嫌な予感…)



「…もしもし」




「ピクニックに行くのか」




「は!?」




「富山行きのバスに乗って、今からピクニックか」





あたしは唖然。





「えっ…な、何の事!?あたし今菜緒の家だしっ!!」




「あーそうか。じゃぁ俺がさっき見たお前似のブサイクは人違いか…おかしいなーお前位酷いの中々いないけどなぁ…」




(さりげなく酷い暴言吐いてるし…)





健兄とゆう存在は本当に不気味で、色々な所に出没する。




それがまるで付けられている様で、あたしはいつも出掛ける時は警戒していた。

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