第四十三時限目

「ねぇ結芽ちゃん」




議論が繰り広げられる中、桂太君が小声であたしに話し掛ける。




「何?」




「霧島とはちゃんと折り合いついたの!?」



「…一応ね(笑)」




「そっか」





霧島君との賭け




あたしの中では、もう勝負は付いている。





「霧島君、背中押してくれたよ」




「えっ!!あいつが!?」




「きっと優柔不断なあたしに愛想付かしてるはずだよ(笑)」





あの人にはどうか幸せな恋愛をして欲しい…




「霧島、ちょっと見直したかも」




「でしょ(笑)」




「ほんのちょっとね」



「はいはい(笑)」





椅子に体を預けながら桂太君が笑い、ジーパンの裏ポケットから携帯を取り出す。





「撮らなきゃ」




「何を!?」




「あかりちゃん!」




「桂太君も親バカになりそうだね~(笑)」





照れながら2つ折りの携帯を開きディスプレイを見た途端、桂太君の顔色が一変した。





「…どうしたの!?」



「電話…」




「誰??」




「…拓…」



(拓…?)




「桂太く…」




「あの野郎っ…今更電話よこしやがってっ!!」





桂太君が携帯を耳に当てる。





「結芽どうしたの!?」




「拓から着信があったみたい…」




「えっ!!本当!?」




あたしと菜緒の会話に和也さんと美和さんが立ち上がる。





「えっ、ちょっと和也さん達何処に行くんですか!?」




「富山だよ!」




「そんな無理ですよ!!あかりちゃんまだ小さいのにっ…」





あたしの言葉に菜緒も頷く。





「そうだよっ!!拓はあたし達が連れ戻すから!!」




和也さんと美和さんが顔を見合わせる。




「桂太、どお!?」




「…出ない」





眉間に皺を寄せ、苛立ちを隠せない様子の桂太君がタバコに火を付けた。





「でも、事故とかに遭って無いって事だよね!?ね、桂太君っ…」




(とりあえず安心した…)





「菜緒」




「何?」




「お前いくら金ある?」





桂太君が自分の財布を取り出し中身を確認する。





「一万とちょっと…」



「俺も約一万。結芽ちゃんは!?」



「あたしは…」





バックから手探りで財布を取り出し、薄っぺらい中身を確認しようとした時…





「ちょっと待って」





和也さんがあたし達に叫んだ。





「金なら俺が出す」




「えっ…、別にいいですよ!なぁ、菜緒!?」




「うん、家に戻ればあるし…」




「拓の責任は俺の責任。惜しむ必要も無いし。ただ、富山に行くのは結芽ちゃん1人で行ってくれないか?」




「…あたし1人…で?」




「うん」





和也さんの突拍子も無い発言に、菜緒も桂太君も唖然。





「本気で好きなんだろ?」




「……」




「それとも桂太達がいないと拓1人捕まえてられない?」




「おじさんっ、結芽1人は無理だよっ!!」




黙るあたしの手を握り、菜緒と桂太君が和也さんに食い付く。





「知らない土地に結芽ちゃん1人でなんて…男の俺ならまだしも結芽ちゃんは女の子だよ!?」




あたしの盾となる2人を避け、あかりちゃんを抱いた美和さんが目の前で膝を付いた。





「結芽ちゃんは幸せだね」




「……」




「でも、恋愛って2人でするものだよ!?」



もうずっと前から思ってた。




甘えちゃいけない、頼っちゃいけないって思いながらも




結局はいつも助けられてばかり。




拓はいつも1人で色んな事を乗り越えて




いつも影で声を殺して泣いてたんだよね?




中庭の時も、千沙ちゃんが見てしまった教室でも…




拓は強いんじゃない。



強くなろうと堪えているだけ。




きっと、これはあたしを成長させてくれるいい機会なのかもしれない…





「分かりました」




「…私達の代わりに行って来てくれる?」




「はい」




「ちょっと結芽っ!」



菜緒があたしの腕を強く引っ張る。




「無理だよっ!」




「観光がてら行って来るよ(笑)」




「おじさんっ…」




和也さんが吸っていたタバコを桂太君が取り上げた。




「結芽ちゃん1人は危険だろっ!?」




「これ位しないと、拓と結芽ちゃんはこれからもずっとすれ違ったまま終わるぞ」




「宮城と富山なんてどれ位離れてるか分かって言ってるんですか!?」




「桂太君っ…!!」





あたしは大声で怒鳴る桂太君のシャツを引っ張る。



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