第三十八時限目

「俺と菜緒は待ってるから」




「……」




「じゃぁね」




優しい口調なのに、冷たく突き放された感じになるのはどうしてだろう。





「拓…何処に…」




あたしは急いでリビングへと走り、携帯から拓の番号を探した。





「あ…消したんだっけ…」




「竹内どうしたの?」



「…ごめんねっ、あたし帰るっ…」





知らん顔なんて出来ない。




拓が突然居なくなるなんて余程の事…





「竹内ちょっと待って」




「送らなくて平気だか…」




「行かせねぇよ」




「…え?」





リビングを出た瞬間、霧島君があたしの手を掴んだ。





「何…で!?」




「いい加減忘れろよ」



「何を…(笑)」




「松澤だよ」





強引に引っ張られ、あたしは霧島君の腕の中に包まれる。





「は、離してよっ…」



「キスしていい?」




「えっ、ダ…」





力の強さに改めて知らされる『霧島君も男の子なんだ』とゆう事…



蒸し暑い家の中、あたしは霧島君と2度目のキスをした。



「放してっ…!!」




「放したら行くんでしょ?」




「……」




「もう行かない方がいいよ?」





両方の腕を強く握られ、あたしは痛みと恐怖で身動きが出来なかった。





「い、霧島君らしくないよっ!?」




「これも俺だよ?好きな女が他の男の事で血相変えられたらさ…意地悪したくなるよね(笑)」




「意地悪って…」




「俺、竹内の事幸せに出来るよ!?沢山笑わせてあげれるし、泣かせたりもしない。だから…」





あたしの耳に口を近付け、霧島君が低い声で囁いた。





「松澤なんてさ、このまま居なくなればいいんじゃない?」





微かに笑った霧島君の息があたしの耳を突き抜け、その瞬間、あたしの手が無意識に霧島君の頬を叩いた。





「ごめっ…」




「……」




「本当にごめんっ…」



「…分かった?」




「え…?」





叩いた方の頬を擦りながら、霧島君はそのまま床に腰を降ろした。




「だから!分かった!?」




「な、何がっ…!?」



「まだ分かんない訳!?」



霧島君に手を取られ、崩れる様にあたしも床に膝を付く。





「バカだなぁ~」




「何急に…」




「竹内はさ、どんな事があっても松澤を忘れられないんだよっ」




「別にそんな事っ…」



「ごめんね。電話の内容全部筒抜けてましたぁ~」





壁に寄り掛り、腰にさしていた内輪であたしの髪をなびかせる。





「俺がいくら竹内を想ってても、竹内の心には松澤しかいないんでしょ?」




「……」




「本当に素直じゃないんだから…(笑)」




そう言って笑った後、霧島君は立ち上がってあたしのバックを手に取った。





「行くよ!」




「え…」




「あ、俺もちょっとした賭けをしてもいい!?」




「賭け?」





ポケットから車の鍵を取り出し、その鍵で頭を掻きながら霧島君が言った。





「竹内が松澤を見つけられたら、俺はきっぱり竹内を諦める。でも、もし竹内が松澤を見つけられなかったら…その時は俺の彼女になって」




「……」




「…無謀な賭けだけどね(笑)」




サンダルを履き終えた霧島君が内輪であたしの頭をポンと叩いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る