第三十四時限目

「結芽ごめんねっ…」



「……」




「本当にごめんねっ…」





部屋の前まであたしを追い掛け、ひたすら謝り続けるお母さんを無視し、あたしは部屋に入り無言でドアを閉めた。





(学校…行きたくないな…)




数時間後には制服に着替え、菜緒や桂太君達の姿、そして手を繋いだ拓と千沙ちゃんの姿を見る1日が始まる。




(霧島君にもちゃんと返事しなきゃな…)




荷物をドアの横に置き、ひとまず体を休めようとベッドの上に横たわった時、ドアの向こうから泣きじゃくる声が聞こえた。





(えっ!?)




あたしは急いでベッドから起き上がり、ドアへと向かう。




「お、お母さん…?」



ドアノブに手を掛け、静かに開ける…




そこには、廊下に正座をし、頭を床に付けるお母さんの姿があった。





「ちょっ…何してんのっ!?」




あたしは体を縮め、お母さんを立ち上がらせようと冷たくなった手を引っ張る。





「もう分かったから…」




「…ないで」




「え?」




「お母さんの事嫌わないで…」



「お母…」




「結芽を妊娠して後悔なんてしてない。結芽が居ない毎日は考えられないの」




頭を上げ、うつ向いたままお母さんが言う。



「拓君のお母さんがどうしても許せなくて…誤解だったと分かった今でも許せなくて…」



「……」




「自分の事を棚に上げて言ってる事は分かってる。拓君と結芽は何も悪く無いって…」





あたしは何をしていたんだろう。




お母さんにここまでさせて、散々兄貴達を振り回して…




あたしの恋って何だったのだろう…





「お母さん」




「……」




「これ、ちょっと貸して?」




握られている拓からの手紙を、あたしはそっとお母さんの手から抜き取る。




「あ…手紙ぐちゃぐちゃにしてごめ…」




「もういらない(笑)」



「え…?」




「もう辞めた!!」





あたし中心の生活じゃない。




一人一人が主人公の生活で無ければいけない。





「結芽っ!!」





泣いてしまったのかどうかは覚えていない。



あたしは綺麗に伸ばした手紙を小さく小さく破った。



「ねぇお母さん」




「……」




「あたし、お嫁に行かないかも(笑)」




「何言ってんの…」




あたしはベッドにあった毛布を取り、未だ廊下に座り続けるお母さんの体に巻き付けた。




「お腹痛めてあたしを産んだんでしょ?」




「……」




「あたしが居ない生活が考えられないんでしょ?」




お母さんが黙って首を縦に振る。




「なら、あたしお嫁にいかない(笑)あ、でもお婿さんなら平気?」



青白いお母さんの顔に、ほんのりと笑顔が戻る。




「拓はさ、今幸せなんだよね。それを見守るのがいい女じゃない?」




「…知らないよ(笑)」



「お母さんの娘だからさ、そのうちボインになって…」




「バカじゃないの(笑)」




「もう、泣く事ないよ」





この先、どんな事があっても笑っていればいい。




そうすれば、きっとそのうちあたしは心から笑える様になるはず。



「あのさぁ…」




「何?」




「お腹空いた(笑)」





『泣いた分だけ強くなれる』




あたしはそう信じ、新しい道を踏み出し始めた。


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