第三十一時限目

時刻はもう夕方。




デパートの外に出たあたしは、スーツ姿のサラリーマンや同年代と思われる学生達の間をすり抜け、少し大きめな交差点の前に辿り着いた。




「ここからどうやって帰ろう…」




バックの中から財布を取り出し、中を確認する。




「七千円かぁ…これじゃ足りないよね…」




(その前に、あたし帰ったらダメなんだっけ…)




あたしの事を知ってる人なんて1人もいない。




さっきはあんなに干渉されたくないって思っていたのに、今はどうしようもない程の恐怖感を抱いていた。





「…とりあえず歩いてみようかな」




行く先が何処に繋がるのかも分からない道をあたしが1歩踏み出した時、今日1日鳴る事が無かった携帯が音を響かせた。




(あ、仁兄だ…)




一瞬躊躇したものの、あたしは結局鳴り続ける携帯の通話ボタンを押す。





「…もしもし」




「金も無いくせにいつまで意地張ってんだよ」




仁兄の声が、あたしの恐怖感を和らげる。



「気分転換に散歩だよ…」




「散歩は地元に帰ってからにしろよアホ!」



「ぶらり旅なのっ!!」




本当は今すぐにでも迎えに来て欲しい。




でも、ひねくれた性格を持つもう1人のあたしがそれを拒む。




「今何処だよ!?」




「日本」




「お前っ…変な奴に絡まれても知らねぇぞ!!」




「逆に絡んでやるもんね!」





そう言い終えた次の瞬間。





「くそったれがっ!!」




「うわっ…」




あたしは背後から突然首を締められた。




(か、絡まれるってこうゆう事なの!?)





剣道歴5年。




竹刀が無きゃさっぱり役に立たない…





「ぐるし…」




「俺様に謝れ」




「なっ…何が…」




(あれ?この声…)




「早く謝って下撲になれっ!!」




「たっ、健兄ー!!」




顔を見なくても分かる。




おやじ臭い香りと、東京進出の為に箪笥から封印を解いた一張羅の服。




そして、17年の間聞いて来たこの声…



「何で居るの…?」




「…家に着くまでは俺と仁志が保護者だからな」




不適な笑みを浮かべ、健兄が沢山の車が走る道路を指さす。




「…仁兄」




「警察に切符切られる前に早く乗りやがれ!!」





あたしは健兄に頭を鷲掴みにされ、仁兄の車へ無理矢理押し込まれた。




車の中は暖房が聞いていて、冷えきっていたあたしの体に熱を与えてくれる。




広々とした車の中で小さく縮こまるあたしの頭に、健兄が思い切り拳を振り落とした。





「い゛っ…」




「手間掛けさせんな!!」




「健志…(笑)」




仁兄が携帯を取り出し、誰かに連絡を取り出す。




「お前は今まで通り俺等の恥ずかしい妹でいりゃぁいいんだよ!うだうだ言わねぇで黙って従えっ!!」




あたしは激痛が治まらない頭を両手で抱え、健兄を睨んだ。




「お、何だよガキ」




「…同情なら本当にいらないからね」




「お前もしつこいな(笑)」




健兄が胸ポケットからタバコを取り出す中、仁兄があたしに携帯を渡した。


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