第二十八時限目
『知らない男の子供はいらない』
初め、両親は物凄い剣幕で拓を松澤家の長男として迎える事に大反対したらしい。
でも、そんな両親も人の子。
純真無垢な赤ん坊の拓を眺め腕に抱いている内に、愛しいとゆう感情が芽生えた。
『息子達には内緒にする。まだ何も分からない内に拓を置いてお前は出ていけ』
そう宣告された拓のお母さんは勿論それを拒否した。
両方の親から色々と責めたてられていた中、お父さんと拓のお母さん仲を怪しんでいた和也さんが、偶然にも2人が一緒にいる現場を目撃してしまう。
何も知らずにいた拓のお父さんは和也さんからの知らせを受け、ただ無言で離婚届けを差し出し、拓のお母さんだけを無理矢理実家へと帰させてしまったのだった。
「じゃぁ結局拓のお父さんは…」
「何も知らないままだったんじゃないかな…」
「拓のお母さんは拓を引き取りに戻らなかったの?」
「幸音さんが富山に帰ってから長い期間連絡が途絶えてね…、やっと連絡が取れたと思ったら再婚してたんだ」
「…え?再婚!?」
「幸音さん…誰かにすがりたかったみたいでさ…今小学生の娘さんがいるみたいだよ」
「そんな…」
「でもやっぱり上手く行かなくてね…」
「じゃぁ…また…」
「あぁ…」
そこからはもう聞けなかった。
きっと拓のお母さんは最後に自分の幸せを選んだだけ。
新しい生活を守りたくて可愛い我が子を捨てたんだ…
(母親ってそんな簡単に自分の子を忘れられるの?)
「拓…本当にこれを全部聞いたの?」
「あぁ…」
「なら拓はどうしてあたしに話てくれないの!?」
兄妹じゃないなら…
こんな考え不謹慎かもしれないけど、もう何の障害も無いなら…
どうして拓は千沙ちゃんと付き合ったりなんかしたの…?
「分かんない…」
「……」
「拓のお母さんも拓も…皆分かんない…」
まるで終わりの無い迷路。
出口がすぐそこに見えそうなのに、どうしてもその出口に辿り着けない…
(大人になるのが怖い)
安心した気持ちと、未だに解明出来ない不安とが入り混じった中、あたしは最後の疑問をお父さんに問い掛けた。
「どうしてお母さんと別れたの?」
「……」
「拓のお母さんと何でも無かったのなら、どうして離婚届けをお父さんから送ったりしたの!?」
別に理由を知った所で、お父さんとお母さんが仲直り出来る訳じゃない。
あたしだって今更父親がいる生活を望む訳じゃない。
でも…もうあたしだけがまた何も知らないでいる事だけはしたくない。
ただそれだけだった。
それだけだったのに…
「結芽」
「…何?」
「俺は健志も仁志も…結芽も皆同じだ」
「…え?」
お父さんの手が、テーブルの上に置かれた汗ばむあたしの手をぎゅっと包む。
(何…!?)
「ちょっと…」
「結芽…」
「だから何っ!?」
「松澤君は俺の子じゃない」
「はぁ!?だからそれは分かったからっ…!!」
どうしてだろう?
あたしの手を握るその手は徐々に汗ばみ、そして微かに震えていた。
(やだ…何か怖い)
うつ向いたままのお父さんから視線を外し、あたしはガラスで覆われていた店の外へと目をやる。
「…あ」
そこには、人混みに隠れているつもりであろうと思われる2人の兄貴の姿が、はっきりこちらを凝視しているのを発見した。
(あたし包囲されてるみたいじゃん…)
苦笑しながらあたしが視線をお父さんへと戻したその時だった。
「結芽も…俺の子じゃないんだ…」
「…何?」
「お前は母さんが浮気した時に出来た子なんだ」
産まれて来る時…もし自分で決める事が出来たなら、あたしはきっとこの世に存在していない。
幸せを望んで産まれても普通の幸せさえ掴めないなら、せめて何も知らないまま消えたかった。
最低な考え方位分かってる…でも
この時のあたしは、本当にそう心から思った。
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