第二十三時限目

「…い」




「おいっ!!」



「いでっ…」




後部座席のシートを倒し、家から持参した毛布に体を包み、車の揺れと共に心地よい眠りに就いていたあたしは健兄の頭突きによって目を覚ました。




「あ…頭割れる…」




「1人で爆睡しやがって…ほらっ、着いたぞ!」




(えっ、もう…!?)




健兄が後部座席のドアを開け、あたしを外に出る様促す。




「どーも。こんにちは」




「…仁兄っ!?」




「すげぇ頭だな…(笑)とりあえず風呂入れよ」




「ふ、風呂…?」




車から降り、あたしは約束の場所である東京駅を探した。




「ここ…もしかして…」




「そ、俺の家」




「あれ?東京駅は!?」




「健志が途中リタイヤしてな(笑)とりあえず迎えに行ったんだけど…」




「…だけど!?」




健兄と仁兄があたしを見てため息をつく。




「お前…地元じゃないんだからさ…化粧位して来いよ」



(あ゛…)




本当は、東京駅に着く前にちゃんと起きて身なりを整える予定だった。




ここ最近寝不足だったせいか、あたしは車に乗り横になった途端、一気に睡魔に襲われ結局一度も起きる事無くここまで来てしまった。





「風呂入って一休みしたらすぐ出るぞ。健志もシャワー浴びろよ」




「おぉ…サンキュ」




マンションに入り、仁兄が7階のボタンを押す。




「ねぇ、今日はお義姉ちゃんと幹太いるの?」




「当たり前だろうが。あ、幹太に結芽が来るって言ったら喜んでたぞ?」




悟兄は20歳とゆう若さで結婚した。




籍を入れる前に幹太がお義姉ちゃんのお腹に宿ったから、世間では『出来ちゃった婚』って言うのかもしれない。




けど、仁兄達から言わせれば決して間違えて出来たのでは無く、赤ちゃんが欲しいと心から願って授かったのが幹太らしい。




「幹太何歳だっけ?」



「もうすぐ5歳。お前と同じだよ、中身がな(笑)」




そんな仁兄の皮肉をあたしは軽く鼻で笑い、気が付けば仁兄の自宅前に着いていた。



「連れて来たぞー」




分厚い扉を開け、仁兄が奥の部屋に向かって叫ぶ。




「あ゛ーっ!!結芽と健志おんちゃんだっ!!」




「「幹太~!!」」




甥っ子にべた惚れなあたしと健兄は、笑顔で出迎えてくれた幹太の頭を同時に撫でる。




「結芽ちゃんっ、お義兄さんお久しぶりです」




「お義姉ちゃんっ!」



仁兄より2歳年上のお義姉ちゃんは、少し気が強いけどあたしを凄く可愛がってくれる本当のお姉ちゃん的な存在。




「結芽っ!幹太と遊んで~!」




「よしっ!じゃぁ…」



すっかり幹太のペースに呑まれているあたしに、健兄が後ろから蹴りを入れる。




「お前は風呂入れ。幹太は俺が相手してやる」




「え゛ー…っ、別にちょっと位…」




「親父を待たせてんだよ!ほらっ、幹太はおんちゃんと遊ぶぞっ!」




(ふん、幹太はあたしが…)




「別にどっちでもいいから早く遊ぼ~!」




(あ~そうですか…)




嬉しそうに健兄と手を繋ぐ幹太を見送り、あたしは爆発の頭を両手で抑え、脱衣所へと向かった。


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