第二十二時限目

「何喧嘩してんの…うるさいわね…」




体をふらつかせながら、お母さんが部屋の中へと入って来た。




「健志も結芽も明日早いんでしょ…?」




(…え?)




あたしは健兄を見る。



「だから…お母さん知ってるんだって」




「え…そう…なの…?」




唖然とした顔でお母さんに視線を移したあたしに、お母さんは少しだけ笑って顔を縦に振った。




「な、何で!?」




「何が?」




「お母さんは嫌じゃないの!?」




こんなに苦労して




やっと兄貴達が手の掛らない年になって




なのに、今更…




今更『親父』だなんて…




「結芽」




お母さんがぐちゃぐちゃの顔をしたあたしの隣に座り、優しく頭を撫でてくれた。




「結芽も…今年で17よね?」




「…うん」




「だから、そろそろ知ってた方がいいと思うの」




「知っておいた方が…って…」




(何があるの?)



あたしの目の前で、健兄がお母さんに向かって首を横に振る。




「とにかく、東京に行くぞ」




「……」




「親父が全部話してくれるから」




「お母さんは…それでいいの?」




「いいも何も…」




気のせいだろうか




一瞬、お母さんの顔が歪んだ気がした。




(お母さんやっぱり無理してるんだ)




「あたしやっぱりっ…」




「行ってきなさい」




お母さんが痛い位にあたしの手を握る。




「お母さん…」




「行って…お母さんの代わりにあの人からちゃんと話を聞いて来て…」




「だから…何があるの?」




「その代わり…」





お母さん…




お母さんは、この時きっと不安で不安で仕方なかったよね?




本当はあたしに行ってほしくなくて…




本当の事を知られるのが怖くて…




でも、それでも東京行きを進めたのは




母親と娘の絆を確認する為にでもあったんだよね…?



反らす事が出来ない位、真っ直ぐな瞳であたしを見るお母さん。




「その代わり、ちゃんと帰って来てね(笑)」



「何言ってるの?当たり前じゃんっ!」




顔を赤くして声を張り上げるあたしに、お兄ちゃんが軽く頭を叩く。




「あと1時間半後…4時にここ出るぞ!」




「えぇっ!?」




「お前は車の中で寝ろ。俺は4時まで寝る!だから起こせよっ!」



「お母さんも寝るねぇ~」




(新幹線じゃなくて車なの~!?)




「お兄ちゃん…」




「何だよ!?」




「東京に車でって…」



「首都高…乗れるかな(笑)」




(だよね…)





先が見えないあたしと拓の為、そして




お母さんとあたしの為…




「ん゛っ…!?」




「どうしたの!?」




「布団…何かくせぇ…」




「わはは…おやすみ~」





そして、出発時刻の4時…




を、だいぶ過ぎた5時前。




あたしと健兄は東京へ向け車を走らせた。

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