第二十一時限目
「ちょっと寒いよっ!」
「アホッ…でっけぇ声出すなって!お母さん起きんだろ!」
布団を握ったままテーブルの上にあったリモコンでテレビを消し、突然布団の上にあぐらを掻き始めた。
「話し合いするぞ」
「は?何の!?」
「お前の男のだよっ!」
(やっぱり来たか…)
百歩譲って、目の前にいるのがお姉ちゃんならまだ分かる。
同じ女だし、同じ立場で意見を言い合えそうだし…
でも、現実にあたしの目に移るのは紛れもなく男の臭いを漂わせた8歳上の兄。
あたしはとてもじゃないけど恋愛の話を言える気にはなれなかった。
「男なんていないってば…」
「仁志から全部聞いたもんね」
「でまかせじゃないの?」
「あっそ…まぁ、東京に行けば全部分かるけどね」
東京…
あたしはこの言葉に声を荒げて反論した。
「東京なんか行かない!」
「何言ってんだよ!?お前の為に仁志も親父も会社休んだんだぞ!?」
「そんなの知らないよっ!とにかく東京なんて行かないからっ!」
そっとしておいてほしい…
これ以上、変に拓への希望を持たせないでほしい…
「あ~ぁ…結芽はそうやってすぐ泣くし…」
健兄がテレビの上にあったボックスティッシュをあたしに投げる。
「あんな人っ…今更顔なんて見たくないっ…」
大人気無いのは十分分かってる。
それに、父親の代わりとしてあたしを見て来た兄貴達のお節介にも、本当は感謝してもしきれない位にありがたいと思ってる。
でも、それに便乗してあの人があたし達の輪の中に入り込んで来るのが、どうしても許せなかった。
「お前さ…彼氏と別れたんだって?」
「……」
「よく分かんねぇけど…親父がどうしてもお前と話たいって…」
「……」
「あのさぁ…」
口を堅く閉じたままのあたしに、健兄がタバコに火を付け話し始めた。
「親父とお母さんが離婚したのって、結芽が産まれてすぐだろ?」
「……」
「俺と仁志はさ、8年間親父と生活して来てるんだよね」
「…だから何」
関心が無いふりをして、本当はただ聞くのが怖いだけの臆病なあたし。
「だからさ…お前が思ってる程…」
「『親父は悪い奴じゃない』って言いたいの?」
頭に血が上る…
そう思う健兄に吐き気がする…
(裏切り者っ…)
そんな言葉が頭をよぎった瞬間、あたしは手元にあった携帯を健兄めがけて飛ばした。
「い゛っ…」
「健兄はいいよねっ!?好きな人と普通に恋愛して皆に祝福されて結婚してっ…おまけにあんな人を親父って呼びながらお母さんの前では普通の顔!?神経図太すぎるっ!!」
こんなに取り乱したのなんて初めての事。
「結芽、ちょっと落ち着けって…」
「お母さんがこんな事知ったらっ…」
その時、静かに部屋のドアが開いた。
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