第十八時限目
「あ、お兄ちゃん?そうゆう事だから、もう電話掛けて来ちゃダメですよ!?」
(後で仁兄の携帯に無言電話しまくってやる)
「は?何お前…気持ち悪過ぎ…ってかさ…」
(今度は何だよ…早く電話切らせてよ…)
「何?あたし今忙しいの!!」
「お前…まだ付き合ってたの!?」
(は…?)
仁兄の言葉の意味が全く理解出来ないあたし。
「何が?だからあたし彼氏なんて居ないってば」
「え…だって今の声って男だろ?」
(こいつ…地獄耳だな)
八畳はある部屋の中、何故か霧島君はあたしのすぐ隣で体育座りをしている。
携帯の受話音量は一番低い設定。
でも、これだけ静まり返った中で叫ぶ様に喋る仁兄の声では、少なからず会話が霧島君に聞こえてしまうのではないかとあたしはびくびくしていた。
(もうっ…)
「友達!男の子の友達位いるでしょ!?それよりさっきのは何なの!?」
「さっきの…って!?」
(やっぱり同じ血が流れてるだけあって物忘れ酷いな…)
「だから…別れ云々言ってたでしょ!」
「あぁ…本当はその件で電話したんだって」
どれだけ頭の中で整理してみても、解決の糸口は見付からない。
「制限時間2分ね。2分経ったら切るから」
「お前…正月に帰ったら見てろよ」
「10秒経過~」
思ってもみなかった。
だって…普通ここまで予測出来ない…
「は~い、40秒経過ねぇ~」
無言が続く仁兄サイド。
(もう2分にしちゃおっかな…)
その時だった…
「結芽、松澤拓君の事で話があるんだ。明日東京まで来なさい」
お父さんの声…
(今…松澤拓って言った?)
「何であんたが拓を…」
「お金は健志から借りなさい。健志に言っておいたから」
淡々とした口調であたしに事を告げるお父さん。
(どうゆう事…?)
今まで何の音沙汰も無くて、初めて逢う理由が拓…?
(ふざけないでよ…)
「行かない。それにあんたが拓の名前を軽々しく口にしないで」
霧島君が隣に居る事すら忘れ、感情剥き出しの状態で言葉を荒げるあたし。
「幸音さんから連絡が来たんだ」
「幸音!?誰それ…」
「…拓君のお母さんだよ」
「…は?」
一気にあたしの理性が姿を消した…
「まだ…そんな事してるの?」
「え?」
「あんたっ…まだ関係続いてんのかって言ってんのっ!!」
「たっ、竹内っ!?」
霧島君が体をビクつかせながらうつ向いて携帯に怒鳴るあたしを伺う。
「結芽…落ち着きなさい」
「あたしの名前も軽々しく呼ばないでっ」
非常事態だと感じたのだろう。
電話の相手が仁兄へと代わった。
「結芽っ、お前人の話は最後まで聞けよ!」
「仁兄はあたしと拓がどんな理由で別れたか知らないの!?」
「だからっ!その話は親父がっ…」
悔しかった。
あたしはお父さんとゆう存在が居なくても、お母さんや兄貴達…それにじいちゃんばあちゃんが居ればそれだけで十分幸せだった。
でも…健兄と仁兄は
2人はあたし達だけじゃ不満だったの?
『親父』だなんて…
我が子を置いて消えた人を『親父』と言えるなんて…
そんなの…
そんなのお母さんが可哀想だと思わないの…?
「そんなだらしない男…あたしは認めないから」
この人は…拓だけじゃなくて…
「とにかく明日東京駅まで来いっ!親父と2人で待っててやるから!」
兄貴達までもあたしから奪って行くの…?
「…ないっ」
「あ!?」
「行かないっ!!もう仁兄とも口利かないからっ…!!」
「おい結芽っ…」
いつからこんなに狂い始めたのだろう…
「霧島君ごめん、あたし帰る」
「えっ、ちょっと待ってよ!」
段々とあたしの居場所が無くなって行く…
そんな気がしたあたしは、何も持たずにただ部屋を飛び出した。
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