第十六時限目

「大丈夫?」




「大丈夫大丈夫っ!」



「毎度の事ながら、凄い音出して鼻かむね(笑)」




「なはは…」




「でも、そうゆう所も全部ひっくるめて大好きだから」




後ろを向いて立ったままのあたしを霧島君は手を引き座らせ、霧島君も腰を下ろす。




「例えばさ、本当にそんな障害が来たらゆっくり時間掛けて話し合おう?」




「……」




「俺はそんな事位で竹内を嫌いになったりしない」




「……」




「だから…俺を見てよ…」




ほんのちょっとだけ空いた心の隙間…




そこに霧島君がポンと入って来た。




「キスしていい?」




「……」




「嫌って言わないならしちゃうよ?」




最低。




拓を想いながら、あたしは『NO』と言えない…




「顔…上げて?」




うつ向いていたあたし。




霧島君はそんなあたしの顔を静かに上げる。



2度目のバイブ音が鳴り響く部屋の中、あたしは抵抗する事無く霧島君とキスをした。



(あたし…今霧島君と…)




携帯のバイブ音が消え、あたし達の空間は怖い位に静まり返っている。




(このまま霧島君と付き合っちゃった方が楽なのかな…)




最低な事を頭に浮かべながらも、瞼の裏に映し出されるのは拓の顔ばかり。




(拓…今も千沙ちゃんといるのかな)




そんな事を考えてしまっていた時、突然霧島君が吹き出した。




「なっ、何っ!?」




「ご、ごめっ…(笑)」



「え!?あたし何かした!?」




背中を丸め、苦しそうにお腹を抱えて笑う霧島君。




「たっ、竹内白眼になってるからっ(笑)」




「…へ?」




「しかも鼻息荒いっ…(笑)」




(やだ…あたし変態じゃないか…)




少しだけ緊迫していた空気が一気に柔らかくなる。




「鼻息ふがふがしてるから目を開けたらさ…」




「いいの…言わないで…」




「何処かに出掛けてたの?(笑)」




「…そうゆう事にしといて」



ドラマで例えれば、本来ならここからもっとシリアスになるとゆう流れなのだろう。




でも…




「竹内、今のわざとでしょ?(笑)」




「ち、違うよ!あたし目を閉じると白眼になるみたいでっ…」




「やばい…本当に腹痛い(笑)」




(あたし瞼短いのかな…)




自分の余りの色気の無さに愕然としていると、微かにまた携帯のバイブ音が聞こえて来た。




「竹内電話じゃない?」




「霧島君じゃないの?」




「俺の携帯はブレザーの中ですから!」




「そっか…じゃぁあたしの携帯だね」




(さっきからだよね?誰だろ?お母さんかな)




旅行中の自由行動用として持参した小さいバックの中を探り、あたしは未だ振動し続ける携帯の画面を開いた。



(あ…また知らない番号だ)




「竹内?出ないの?」



手に持った携帯を眺めたままのあたしに、霧島君が不思議そうに顔を覗かせた。




「あ…うん。知らない番号だから…」




「とりあえず出てみたら?携帯変えた友達かもよ?」



(でも、携帯変えたらメールで報告しないかな…)




「俺が出よっか?」




煮え切らない態度に苦笑した霧島君があたしの前に片手を差し出す。




「ううんっ、大丈夫!あたし出るから」




修学旅行中に掛って来ていた番号とはまた違う。




(まさか…千沙ちゃんとかは無いよね?)




「あ、俺ちょっとトイレ!」




「うん、行ってらっしゃい」




あたしに気を使ったのだろうか




霧島君が部屋を出て1人になったあたしは、若干緊張しながら電話に出た。





「…はい?」




「もしもし!?」




電話の向こう側から聞こえて来た声は、あたしが十分過ぎる程に知り尽くしている声。




「あれっ!?もしかして仁兄!?」




「そうだよっ!さっさと電話出ろっての!」



8歳離れた双子の兄貴。




一卵性双生児の兄貴達はあまりにも似すぎている為、小さい頃のあたしにはどっちの兄貴に苛められ、そしてどっちの兄貴に助けられていたのか区別がつかない程だった。


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