第十五時限目

「霧島君は、どんな障害も乗り越えられる?」




「え?障害?」




「例えばあたしが男でも?」




「え…まぁ、好きなら…?多分…」




「あたしが最低な父親の娘でも?」




「…竹内?」




ここまでなら




ここまでなら、拓もきっとあたしから離れるなんて事しなかった。



そう、ここまでだったら…





「例えば…」





もう限界だった




苦しくて悔しくて




そして…拓の隣とゆう居場所に、あたしが居れない事が寂しくて…



桂太君と菜緒だって、あたしにとってはもう一つの居場所。




優しくて楽しくて…




常にあたしを包んでくれて…




でも…




でもあたしの中で、桂太君と菜緒の後ろには『拓』とゆう影がいつも付きまとってて…




桂太君も菜緒も拓とあたしの間でいつも苦しんで…そしてあたし自身も桂太君達といる事で拓を忘れられなかった。



段々とはっきりしていく事…




自分の為に忘れたいんじゃない




拓の為に忘れなきゃならないんだ…



「例えば…何?」




あたしの手を取り、優しく力を入れる霧島君。




「例えば…」




霧島君のだろうか…

それともあたしのだろうか




離れたバックの中で携帯のバイブ音が部屋に響く。




「例えば…あたしと霧島君が兄妹でも?」




「…兄妹?」




霧島君の顔がこわばる。




「…やっぱりそれは無理かなっ(笑)」




「……」




「あり得ないよねっ…あ、あたし旅行中沢山食べたから歩いて帰るねっ」




『1人になりたい…』



そう思い握られた手をそっと離した時…





「兄妹って同じ血が通ってるって事でしょ?」




霧島君が立ち上がったあたしの手を再度掴んだ。




「そう、問題外だよね!?」




(あたしバカみたい…自分で聞いておいて自分でへこんでるし…)



「例えばだから!あ、例えが悪かった?(笑)」




ヘラヘラ笑う事しか出来なかったあたし。




そんなカッコ悪いあたしを、霧島君は真剣な顔でこう言った。



「同じ血が通ってるなんて、嬉しくない?」



「…え?」




「別にいいんじゃない?…あ、それよりも俺は人間に化けた狸とかの方が堪えるなぁ…」



「……」




「あれ?俺の例え、変!?」





拓の口から聞きたかった言葉…




それをサラッと霧島君は言ってしまった。




でも、実際になったら違うかもしれない。




拓と同じで、霧島君もあたしから離れるかもしれない…




でも…




この場限りの言葉でもあたしには救いの言葉だった。




「ありがとう…」




「何で?」




「霧島君って…変な人っ(笑)」




「何それっ…ってまた泣くぅ~!!」




霧島君が立ち上がり、本棚に置いてあったボックスティッシュに手を延ばし箱ごとあたしに渡した。




「竹内…」




「ん?」




「あ、先に鼻かんでいいよ(笑)」




「ご、ごめんね」




垂れ下がる鼻水をティッシュで抑え、あたしは後ろを向いて勢いよく鼻をかんだ。






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