第十四時限目

「すみません…」




「じゃぁ、また今度だね。とりあえずゆっくりしていって」




「はい」




喫茶店で出される様な綺麗なカップに入れられたコーヒーを、あたしはお母さんの背中を見ながら口に含んだ。



(に、苦いな…)




「ねぇ竹内」




霧島君がコーヒーと一緒に出されたお菓子を食べながら言う。




「何?」




「竹内と松澤って、何で別れたの?」




「えっ…」




「急にでごめんね?でも、皆不思議がってるからさ」




「……」




『他に好きな人が出来た』




『浮気した、浮気された』




普通の恋人同士に起こり得る事だったら、あたしも迷わずに言えたのかもしれない




でも…





「喧嘩…かな」




「どんな?」




「どんな…って」




「喧嘩くらい、いつもしてたじゃん?」




「そうだけど…」




「ってかさ…松澤もすぐ彼女作っちゃったしね」




「……」




「何か…無理矢理忘れようとしてるみたいじゃない?」



『千沙』ちゃん…





大人びた顔立ちの子で、背丈も拓に似合う綺麗な子。




「霧島君…」




「何?」




「拓って、千沙ちゃんと仲良かったの?」




言うまいと思っていた言葉が、勝手にあたしの口を動かす。




「うーん…でも、結構廊下とか上の階で2人で話してたのは見かけてたよ?」




(そうなんだ…知らなかった)




「…お似合いだよね(笑)」




「またまたぁ…これっぽっちも思ってないくせに」




「そんな事ないよ…」



「悔しいけど、松澤は竹内じゃなきゃ駄目だと思ってたけどね」




「……」




修学旅行の最終日に分かった事。




この旅行で沢山のカップルが誕生したらしい。




タカや拓と同じ様にそれぞれが好きな相手に想いを告げ、そしてお互いの気持ちが通じ合う…




勿論成立しなかった子もいたみたいだったけど、あたしはその勇気が凄いなって本当に思った。




何にも出来ずに後悔をしているあたしよりは…



「俺さ…」




「え?」




「後悔してるんだ」




霧島君が真っ直ぐな瞳であたしを見る。




「後悔…?」




「最初から敦子さんと手なんか組まないで竹内にぶつかれば良かったなぁって」




「……」




「まぁ、それでも竹内は俺になんか目もくれなかったろうけど(笑)」




「…ごめん」




「ねぇ竹内?」




「……」




「どうやったら俺を好きになってくれる?」



反らす事が出来ない霧島君の瞳。




「今はまだ…」




「キス…しよっか」




「え?」




「キスすれば頭の中空っぽになるかもよ」




向かい側に座っていた霧島君が、スッとあたしの隣に移動する。




「や…ちょっと冗談でしょ?」




「本気だよ?」




「ほ、本気って言われてもっ…」




無意識に体が拒否反応を起こし、詰め寄る霧島君にあたしは後退りをした




その時だった…





「松澤と彼女だって、もうキス位してるんじゃないかな?」



(拓が千沙ちゃんと…)




わざと考えない様にしていた問題。




好き同士なら勿論キスやそれ以上の事だってする。




それだけが愛情表現に繋がる訳じゃないけど、きっと拓達はこの先そうゆう事をして行くんだと考えてしまう自分が…




そんないやらしい自分が凄く嫌だった。





「最低な事をしようとしてる事位、俺も分かってるんだ」




「……」




「『待つ』って言っても…何処かで焦っちゃうんだ」




「……」




霧島君の顔がゆっくりとあたしの顔に近付く。




「竹内」




「……」




「本気で大好きなんだ」




自分はもっと強い女だと思ってた。




拓に出会えた事で




色々あった中でも拓と付き合えた事で




あたしは昔よりは強くなれた




…そう思っていた。





「霧島君…」




「え?」




前髪が触れる寸前であたしは口を開く。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る