第十時限目
「結芽ちゃん」
「……」
「結芽ちゃんさ、本当にこのままで終わっていいの?」
「……」
「血が繋がってたら恋愛しちゃいけないの?」
分からない…
こんなドラマの様な話、まさか自分に降り掛かるなんて普通誰だって想像出来ないはず。
実際、あたしがどれだけ悩んだって拓はあたしの所に戻って来てはくれない。
あんな可愛い彼女が出来て、これから本当の恋人同士になるのをあたしは壊せない…
「…桂太君達には分からないよ」
「え?」
全部あたしが悪者になってしまえばいいんだ。
「幸せな2人に、あたしの気持ちなんて理解出来ないよね?」
これ以上、菜緒を泣かせられない…
「本気で言ってんの?」
桂太君のあたしを見る目が変わる中、開くエレベーターの中から拓と彼女の姿が見えた。
「何だ…まだ揉めてんのかよ」
人事の様に冷めた表情で拓があたし達に言う。
「…お前こそ何だよ?」
「千沙を送りに…」
(チサって言うんだ…)
拓の彼女があたしを凝視する。
「拓の…元彼女だよね?」
「……」
「今日からあたしが拓の彼女です」
目の前が真っ暗になる様な彼女からの一言。
「…知ってます」
「拓…早く彼女部屋まで送って行けよ」
桂太君がうつ向きながら拓へ言葉を投げた。
「分かってるよ。千沙行くぞ」
拓が彼女の手を取り、歩き出す。
(拓…あたしを見向きもしない)
追い掛けて繋いでいる手を引き離したい。
あたしの方が何倍も…
あたしの方が貴方より何十倍も拓を強く想ってるんだよって…
大声で叫んでやりたい…
(最後に…最後に一言だけ…)
あたしは全身の力を奮い起こして口を開いた。
「たっ…松澤君っ!!」
拓の足が止まり、彼女と共に振り返る。
「結芽ちゃんっ」
桂太君があたしの肩を掴む。
(拓…)
「お幸せにっ…!!」
声は震えていなかっただろうか
嫌味っぽくなく、あたしなりのお祝いを拓に贈れただろうか…?
「…どうも…竹内さん」
抑揚の無い喋り方で、拓が最後の言葉をあたしに向ける。
「結芽ちゃんは本当にバカだな」
「どんなにひねくれたって、あたしと桂太は離れないからねっ…」
再びあたしに背を向け歩き出す拓と彼女を、あたしは桂太君と菜緒に頭をこづかれながら泣いて見送った。
それからすぐ桂太君達ともさよならをし、部屋に戻ったあたしは幸せ一杯のタカの前で落ち込む事も出来ず、部屋の子達と皆で朝まで恋愛の話に花を咲かせた。
途中、絶えきれずに泣いてしまった場面もあったが、それは『タカへの嬉し涙』として乗り切り、その場の雰囲気をどうにか壊してしまわぬ様、あたしは自分を誤魔化し続けた。
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