第八時限目

エレベーターのボタンを押し、1階から上がって来るのを待っていたその時、あたしの携帯が鳴った。




「あ、電話だ…ごめん出てもいい?」




「勿論っ(笑)」




ポケットから携帯を取り出し、名前を確認した。




「菜緒からだ…」




あたしは受話器部分を手で覆い、小声で電話に出た。




「もしもし…」




「今何処っ!?」




電話越しから、菜緒の慌てた様子が伝わって来る。




「何処って、今からロビーに…」




「拓が桂太のクラスの子に今から呼び出しされたんだよっ!」




「え…?」




(拓が…?)




「とりあえず今すぐ上の階に来てっ」




「あ…ちょっ…」




あたしの返答を聞かず、菜緒はそのまま電話を切った。




「竹内?」




「……」




どうしよう…




「竹内?おーい!」




「…ちょっとごめんっ…」




予想もしていなかった事件。




あたしは無我夢中で隣にあった階段を登り、上の階へと上がった。



(どっ、何処に行けばいいの!?)




階段を登り、あたしは息を切らして男子が寝泊まりする階へと着いた。




(菜緒に電話っ…)




握り締めていた携帯の履歴から、菜緒へと繋がる通話ボタンを押そうとした時。




「竹内っ!」




「…霧島君!」




下の階で投げ捨てる様に謝り、挙句の果てに置いて来てしまった霧島君が駆け足で階段を上がって来た。




「松澤の所に行くの?」




「…何で知ってるの!?」




「だって、竹内の部屋に向かう時エレベーターの所で女子達が騒いでたから」




(女子…達…!?)




「会話っ…聞いてたの!?」




あたしが勢い余って霧島君の腕を掴んだ時、手に持っていた携帯がブルブルと震えた。




(菜緒だっ)




「もしもし!?」




「結芽ちゃん!今何処!?」




菜緒の携帯から聞こえて来たのは桂太君の声。



「桂太君っ…!今、男子の階のエレベーター前だよっ」




「あ゛~っ!説明面倒だから今から迎えに行くね!」




「あっ、ねぇ!菜緒はっ…」




菜緒と同様、慌てた様子の桂太君はあたしの言葉を聞かず、一方的に電話を切った。




「何て言ってた?」




霧島君があたしの顔色を伺いながら言う。




「桂太君がここまで来てくれるって」




「…どうしてあたしに会った時にすぐ言ってくれなかったの?」




「だって、竹内と松澤って別れてるんじゃないの?」




(…そっか…)





霧島君は全然悪くない。




あたしと拓は既に恋人でも無く、友達ですら無い。




彼女でも無いのに、でしゃばってこんな事をしているあたしが悪いだけ…




「霧島君…知ってたんだね」




「事情まではさすがに知らないけどね…松澤の事、言えば良かった?」




「…ううん」




(あたしバカみたい)



「結芽っ!!」




立ち尽くしていたあたしの前に、菜緒と桂太君が駆け付けてくれた。



「結芽早くっ!」




「…何で君が結芽ちゃんと一緒にいるの?」



菜緒があたしの腕を引っ張る傍ら、桂太君が霧島君を威嚇する。




「桂太っ、そんなのは後で!」




「…結芽ちゃん、行こ」




「あ…ちょ、ちょっと待って!!」




桂太君に背中を押されたあたしは、足に力を入れて立ち止まった。




「ちょっと結芽っ…」



「ごめん、あたし行かない」




「は!?結芽ちゃん何言って…」




「あたし…もう拓と関係無いし」




突然、桂太君の顔つきが一変した。




「お前…結芽ちゃんに何か吹き込んだ?」




「は?」




「桂太君違うってば!」



霧島君を睨み付ける桂太君のジャージを、あたしは目一杯引っ張った。




「ねぇっ!もう辞めてよ!」




「結芽ちゃんはいいのかよっ!もしかしたら拓、OK出すかもしんないよっ!?」


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