第五時限目

「タカちゃん」




あたしは制服からジャージに着替えながらタカに話し掛けた。




「何!?」




「いよいよ今夜ですな…」




「結芽おっさんみたい…(笑)」




半ば照れながらあたしにジュースを渡す。




「タカ達以外に何組がカップルになるんだろうねぇ?」




「どうだろうね(笑)…ねぇ結芽…」




タカが着替え終わったあたしをベランダに誘い、目の前に広がる海を眺めながら話し始めた。




「少しだけ聞いてもいい?」




「何を?」




「拓君の事…」




タカの顔を見ていたあたしも、明日で見納めとなる綺麗な街並に視線を移した。




「そんなかしこまって聞く程の事じゃないよ!?」




「うん…でもやっぱり皆心配してるから…」



「え!?心配?何で?」




「あれだけお似合いの2人だったのに…って。拓君も結芽も無理してはしゃいでる様に見える」




タカに痛い所を突かれ、あたしは苦笑いしか出来ずにいた。



「もう戻れないの?」



タカがあたしへと顔を向ける。




「どうなんだろ…あたしは拓じゃないから拓の考えなんか分からないし…」




「霧島君の気持ちは知ってるんだよね?」




「…へ?」




「クラス全員知ってるよ?霧島君が結芽を好きなんだって」




(そうなんだ…)




「こんな考え方ダメかもしれないけど…」




「ん?」




「…結芽さえ良ければ霧島君の気持ちに答えてあげてみたら?」




「……」




即答出来ない自分が情けなかった。




勿論あたしの気持ちは100%拓にしか向いていない。




その想いは、拓とのわずかな可能性を期待している自分に嫌気がさしてしまう程…




拓と別れた当初は、毎日目を腫らして学校に行き、そして拓を見てはまた涙が溢れ…




同じ空間に居たくなかったあたしは、毎時間の様に保健室へと掛け込んでいた。




でも、そんなあたしをここまで立ち直らせてくれたのは、桂太君や菜緒のおかげ以外に、他でもない霧島君とゆう存在。



『竹内っ、寝てばっかりいると体腐るよ?』



『竹内っ、放課後皆でカラオケ行こうっ!』




必要以上人と関わるのを遮断してしまっていたあたしに、ことごとく体当たりして来てくれたのは霧島君だけ。



最初はその好意を素直に受け入れられず、あたしはずっと首を横に振っていた。




拓に軽い女だと思われてしまう様な気がして…




でも、ある日




『そんな顔ばっかりしてたら皆に迷惑だよ?』




そう霧島君に言われ、あたしは自分のしてる事が凄く恥ずかしかった事にやっと気付いた。




そして、何度目の誘いだったのだろう…




あたしは泣き虫の殻を破り、時間がある日は大抵タカや霧島君達と遊ぶ様になった。




勿論、遊んでいたって拓の事を忘れた日は無かった。




ただ、周りの優しさが…




霧島君の優しさが直球すぎる程あたしの心に響いて…




だから、あたしはそんな霧島君を大切にしなくてはならないんだと思う様になっていた。


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