第三時限目

(あれ…どれ食べてないっけかな…)




あたしの目は並べられたおかずに釘付け。




(あ、海老チリ海老チリ…)




ターゲットを発見し、あたしが大きく腕を伸ばしたその時…




「おい…ワイシャツの裾、すげぇケチャップに浸ってるぞ」




背後から抑揚のない口調で話す声が聞こえて来た。




「…拓…」




何ヶ月ぶりだろう…




今まで、あからさまにあたしを避けていた拓。




「あ…ありがとう」




「どういたしまして」



(今の拓だよね!?)




あまりの驚きに呆然としていると、突然今度は後ろから抱き締められた。




「うわっ…」




「結芽~!?今のしっかり見てたよ~!?」



「菜緒っ…!!」




後ろを振り向くと、そこにはニヤついた菜緒とフォークを口に入れたままニッコリと笑う桂太君の姿があった。




「結芽ちゃん良かったねぇ」




「な、何が!?」




「やっぱ修学旅行っていいよなぁ~なっ、菜緒!!」




「うんうんっ、見てて泣きそうになったもん」



まるで自分の事の様にはしゃぎ、喜んでくれている2人。




「…気紛れだよきっと」




「そんな事言うけど、結芽の口元緩んでるよ!?」




菜緒に指をさされ、あたしは慌てて口元を両手で覆った。




「これはご飯詰めすぎ…モゴモゴモゴ…」




「は!?結芽ちゃん何喋ってるの?」




「桂太っ、幸せ一杯なんだからそっとしといてあげなよっ!」




「あ、そっか…頭に花咲いてるもんね!」




(1年中咲いてる君達に言われたくないっての…)




「…席戻る」




「お花溢しちゃダメだよ~(笑)…菜緒、俺等もそろそろ席戻ろうぜ」




そう言い桂太君が菜緒の手を掴んだ時、




「もしもし亀さんよ!!」




菜緒が急にあたしの腕を引っ張った。




「…誰が亀だって?」



「冗談だってば(笑)それより耳貸して」




「耳かしたら聞こえないじゃん」




「屁理屈言わないでさっさと貸しな!」




「わっ…いでででっ…」




あたしの反抗を無視し、菜緒が無理矢理耳を摘んで引き寄せた。



「ちょっと何っ!?」



「これ、タカちゃんに伝えてっ!!」




「え!?タカに!?そんなの自分で言いなよ」




「実は秘密なんだってば!」




「あたしに話したら秘密じゃないじゃん…」



屁理屈を並べていると、菜緒が更に力を込めて耳を引っ張った。




「くぅ~っ!!厳しいぃ~!!」




「…その真似古いってば…」




あたしと菜緒のじゃれ合いに、桂太君が呆れながら言う。




「…君達、早くして下さいよ」




「結芽っ、早く!」




「分かったよ…あ、息とか吹かないでね」




「…アホか」




苦笑した菜緒があたしの耳に両手をかざして秘密にならない『秘密話』を話し出した。




「あたしのクラスの男子が、明日の夜タカちゃんに告白するみたいだよ」




「え゛っ!!明日の夜に菜緒のクラスのっ…」




言い掛けた所で、菜緒に思い切り頭を叩かれたあたし。




「わざとだよね?」




「…はい、すみません…」




「結芽ちゃん壊れてるなぁ…(笑)」



「あんたバカじゃないの!?」




「もうしません…」




「まぁまぁ…(笑)ほら、菜緒続きは?」




桂太君に促され、菜緒が溜め息をつきながらあたしに言った。




「あのね、その男の子って多分タカちゃんの好きな子だと思うのよ」




「何で分かるの?」




「だってよく2人でいるし、同じ部活だし…」




「憶測で物を判断しちゃダメですよ」




あたしは目を細めて人差し指を横に降る。




「あんた…何で偉そうなのよ」




「ありがとう」




「褒めてないっての」



「結芽ちゃん!菜緒っ!」




桂太君が少し怒った顔であたし達に怒鳴った。



「結芽っ!!」




「…はいはい、で?あたしはどうしたらいいの?」




「明日消灯後にタカちゃんだけを部屋に残して欲しいの」




「えっ!?部屋で何始めるの!?」




「告白だろうがっ!!」




「冗談だって…」




そこで、食事終了の時間が来てしまい、各自自分のテーブルへ戻る様田村から伝えられた。




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