第41話 三角関係
午前の仕事は、由紀に仕事を教えたり、お客の対応などで時間があっというまに過ぎた。でも、忙しい感じはそんなにしなかった。加奈が色々と手伝ってくれて、スムーズだったくらいだ。それに、仕事の合間に楽しく会話もできて気分もほぐれたりするから、加奈がいてくれてほんと良かったと思う。あとは、由紀の俺に威嚇するクセを直せば完璧だ。加奈と仲良くしゃべるたびに睨むのはほんとやめてほしい……。
そんなこんなで、今はお昼休みの時間。今日は由紀を含めた3人で、ご飯を食べる予定だ。行くお店はもちろん、
「いらっしゃ~いっ~!
喫茶店のドアを開けると同時に、風花姉の明るい声が店内に響いた。満面の笑みでこっちを見つめる店主に、俺らはたじろぐ。特に由紀は加奈の側で身構えていた。まあ初対面である風花姉にいきなり自分の名前を呼ばれたら戸惑うよな……、って、あれ? なんで風花姉は由紀を知ってんだ?
「はいは~い♪ お三方固まってないで、こちらのカウンターにどうぞ~♪」
俺らは言われるがまま、素直にカウンターに座る。
加奈が先に口を開いた。
「こんにちは、風花お姉ちゃん」と、加奈の明るい挨拶。
そしたらーーー、
「えっ!? か、加奈っちってお姉ちゃんいたん!?」と、由紀の驚愕の表情。
勘違いするのも分かる。まずはちゃんとした説明を、
「ふふっ、そうです!! 私は加奈ちゃんのお姉さんです!!」と、先に風花姉のどや顔がはさまれた。
お、おいおい! その言い方だと誤解が―――、
由紀が目をキラキラさせながら、加奈に話しかけ出した。
「加奈っちのお姉ちゃん、キレイな人やなぁ!!」
案の定だった。たく、風香姉……!
俺がいきどおってる間に、加奈が驚いた表情で、慌てて由紀に説明し出した。
「へぇ!? いや、あの!? ふ、風花お姉ちゃんは、お姉ちゃんじゃないよ!?」
「えぇ!? ど、どういうこと加奈っち!?」
「いや、あの本当のお姉ちゃんじゃない、お姉ちゃんで……!」
「な、なんやそれ!?」
「え、えっと!? だからその、つまりね―――」
「血の繋がりがない、姉なのよ……!」
「「えぇぇ~!?!?」」
突然、風花姉がまた変なのをぶっこんだ。
驚愕する2人を前に、満足げにニヤつく風花姉。話をややこしくするな!! たく……!
「おい風花姉、からかうのもそのへんにしとけ」
俺のあきれた声音に、風花姉が白い頬を不満げに膨らました。
「むぅ~、これから面白くなりそうだったのに。つまんない弟ね~……」
「つまんないで結構だ。あと、弟とか言うなっ……!」
その後、改めて風花姉は明るく笑いながら、由紀にちゃんとした説明をした。加奈の実の姉じゃないこと、俺や加奈の面倒をみるステキなお姉さん的存在であること(自称だけどな)、ドッキリやサプライズがとても好きとか(いい迷惑だ)。
風花姉が軽く一通り話終えたあと、由紀は、
「そ、そういうことやったんですね……」と小さな声で呟いていた。隣にいる加奈は、どこか申し訳ない感じで苦笑している。いやいや、加奈は何も悪くないぞ、悪いのは全部風花姉だ。
その当の本人は、楽し気に笑んでいる。たく……、
「なあ、風花姉」
「ん? なに太一??」
俺は場の空気を変えるのも兼ねて、聞きたいことを口にした。
「なんで初対面の由紀のことを知ってんだ?」
その問いに少しの静寂のあと、加奈と由紀が口をそろえて言った。
「ほんとだ!?」「ほんまや!?」
仲良いな、ほんと。
風花姉は、ニヤリと含みのある笑みを見せた。俺は取り合えず睨みを効かすことに。また、変なことぶっこもうとしてるだろ。
それに気づいた風花姉はどこか残念な笑みを見せた。でもすぐ明るい表情で、
「ふふっ、まさやんからねっ」
そう言って風花姉は片目を器用にまばたきさせた。
俺はそのウインクに嘆息する。まさやんが絡んでるとは思ってたけどさ。
「電話でね、可愛い女子の由紀ちゃんが新しく仲間に加わったって、教えてくれてね~」
そう言って、由紀に熱い視線を送る。由紀が緊張したように背筋を伸ばした。
「あ、え、えっと!? ゆ、由紀って言います! か、加奈っちのだ、大親友で!」
「ふふっ、うんうん、まさやんから聞いた通りね。これからよろしくね〜、由紀ちゃん♡」
「は、はい! こ、こちらこそですっ!!」
差し出された風花姉の片手を、由紀が慌てて握る。その様子を、加奈は嬉しそうに見つめていた。
「さてと、3人揃ったことだし♪ 風花お姉ちゃんがすっごい美味しいお昼を作っちゃいますよ〜」
「「わぁっ〜♪」」
風花姉の言葉に、加奈と由紀が嬉しげな声音を同時に上げた。まあお昼を食べるのが目的だからな。
その様子を満足げに眺めた風花姉は、2人にメニューを選ぶよう進めた。
由紀は「ありがとうございます」と小さくお礼を言った。嬉しそうに笑みながらメニューを開く。ここに来る道中、お昼はここで美味しいご飯を食べていると説明してたから、とても楽しみにしてたみたいだ。そばにいる加奈に、メニューを近づけると、2人一緒になって覗き込む。
俺はそんな2人を眺めながら、大親友と言う間柄も何となく分かる気がした。てか、すぐ近づくな2人とも。
コツン。
「いてっ」
不意に、俺の頭に何か軽く当たった。何だろうと思ったら、風花姉がメニューで、俺の頭を
軽く叩いていた。
「ほらほら、可愛い女子2人に見惚れてないの♪ 太一もメニューを決めなさ〜い」
そんなわけあるか。
俺は風花姉からメニューを受け取る。開いて視線を落とし……、
でもまた、加奈と由紀の方へ視線はいってしまった。
楽しげに笑顔で、何を頼むか選んでいる2人。
別に見惚れているわけではない。ただ、その……、気になることがあるから。
楽しく笑っている、由紀。
俺は午前中の、由紀が言おうとしていたことは何だったのか、考える。加奈が、『まさやんの本屋さん』の店内バックヤードに行ったとき。俺と由紀は2人きりで。
そのときの由紀は、何か思い詰めた表情で、俺に何か重要なことを伝えようとしていたんだ。
でも、それを聞く前に、加奈が戻って来てしまって、由紀は慌てて口をつぐんだ。……、つまりだ、それって……、加奈に関係のある、ことなのか?
俺は、加奈を見つめる。
とても明るい表情で由紀と話していて。幼さの残る愛らしい笑みがこぼれている。そんな表情をしばらく眺めていたら、俺のなかのモヤっとしたなんとも言えない気持ちが、晴れる感じだ。このまま、しばらく、
すっ。
えっ……。
加奈が、俺の方に突然顔を向けた。丸い瞳が無邪気に俺を見つめる。
しまった……!? 気づかれた!?
俺の鼓動が、変に高くなる。
加奈は不思議そうに小首をかしげる。シルクのように艶やかでキレイな黒髪を揺らしながら、
「太一くん?」
俺の名前を優しく呼ぶ。
「っ……」
なんてことないはずなのに、俺はどうして……、こうも体温をいつもより熱く感じるのだろう。
「もう〜、太一は加奈ちゃんに見惚れすぎだぞ♡」
「なっ!?」
突然、風花姉がまた変なことをぶっ込んできた。そ、そんなわけない……!! ことも、ないような……!?
俺が何も反論できずにいると、
「加奈っちはうちのもんやで!! あんたみたいな変態にはわたさん!!」
「なっ!? だ、誰が変態だ!?」
「あんたしかおらんやろ! やっぱあんたは変態がお似合いや!」
由紀は刺々しく俺に言い放つと、加奈をぎゅっとハグした。加奈の瞳が見開く。
「ちょっ、ちょっと由紀ちゃん!?」
困り顔の加奈が、俺を見つめる。その顔には、『どうしたら良い!?』と、訴えている。いや、お、俺に助けを求められても……。いや、でももとは俺がわ、悪いのか? お、俺のせいなのか?
困り顔の加奈に、威嚇顔の由紀、そして、悩ましい顔の俺。
なんともカオスな3人の状況に、風花姉が楽しげに言った。
「三角関係ねっ♪」
こんな変な三角関係があるか!!
俺は心の中で、大きくつっこむのだった。
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