七話 アグニの噴煙

 



「……ウルス、ここから聞こえたのか?」

「はい、確かにこの洞窟から…………」


 悲鳴の元へ向かうと……そこには小さな洞穴ほらあながあった。中は灯りが点いており、そこそこな広さの空間がありそうで……男たちの下衆な笑い声などが所々外にまで聞こえてきた。



「……もなかなか稼げたな!」

「ああ、しかもガキとはいえ女まで釣れたからな! にしてもこっちは命令を聞いて、ただ略奪するだけ……そして武器は上が用意してくれる。こんなにいい仕事は他にないなぁ!」

「なぁおい、さっきまで騒いでたそのガキはちゃんと黙らしたか?」

「ああ、もう一度薬を飲ましたから大丈夫だ………にしてもギャーギャーわめくガキだったが……これからどう使う?

「くく、ガキはガキで面白いもんだ。明日からどう使ってやろうか?」


 ……会話の内容からするに、盗賊たちが女を攫ってきたようだ。



 本当に、反吐へどが出る。



「盗賊か…………」

「…………はい、どうしますか?」

「……………潰すぞ。」


「やっぱ、村を潰すのは楽しいな〜!」

「あったりめぇだ……特に、攫ってきた女の顔は最高だったなぁ!?」




(……………………。)






「…………師匠。」

「……なんだ?」



「……ここは、俺ひとりでやらしてください。」



 考えるより先に、俺はそう口にしていた。



「……何故だ? いくら強くなったとはいえ、さすがに危険かもしれないんだぞ。一体何で……?」

「…………この下衆たちを、強くなった俺の力を試したいんです。それに……許せない。」


 ………本当は、強くなったのを試したいなんてどうでもいい。

 ただ、俺の心が言っていた。





 


…………………)






 そう、言ってた。





「………気を付けろよ。」

「ありがとうごさいます、師匠。」


 師匠の許可をもらい、俺は1人で中に入ろうとした。




「…………ウルス。」



 

 しかし、洞穴に入ろうとした俺を……何故か師匠は呼び止めた。

 


「………何ですか?」

「………………」




 そう聞くも、何故か師匠は黙ったままだった。

 その意味が俺には分からず、ゆっくりと後ろを見てみると………師匠は何やら浮かない顔をしていた。


「………ちゃんと、助けろよ。」

「………? …………もちろんです。」



 

 そんな様子に首を傾げながらも、俺は返事をして今度こそ洞穴へと入っていった。



(………師匠は一体………)



その時の師匠の表情はやけに印象的で………何故か、頭から離れなかった。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













(……思ったより入り組んでるな……部屋もご丁寧に用意されてあるし、ここが奴らの拠点なんだろうか………)



 洞穴の中はいくつか部屋があり、足音を消しながら先へと進んでいく。そして、いよいよその盗賊が入り浸っている部屋へとたどり着く。

 どうやら奴らは油断しているようで、魔力感知で調べてみると……拐われたという子供以外は全員同じ部屋で固まっているようだった。


「……………」


 下衆な笑い声がまだ聞こえる。

その声に、俺の中にある何かがフツフツと音を鳴らしていく。


(…………殺す。)



 俺は静かに扉を開け放ち、中の様子を観察した……といっても、ただ男たちが酒を飲み漁っていただけだが。



「な……なんだ!?」

「ん………おいおい、よく見たらただのガキじゃないか。迷い込んだのか?」


 開いている扉に気づいた2人の男がこちらに近寄ってきて、俺のことをジロジロと見てきた。どうやらただの子供と勘違いしているようで、男たちは大した警戒もせずニタニタと良いを回しながら話を進めていた。


「どうする、捕まえておくか?」

「いや、男は殺しとけ。足しにもならんし、丁度殺したりないと思ってたところだ。」

「はっはっ、それもそうだな! どうせならこいつの処刑をさかなにもう一杯やるか!!」

(………………くずが。)




 …………まあ、どうでもいい。どうせこいつらは………



「………随分生意気な面だ。まあ、運が悪かった自分を精々恨むんだ……なぁっ!!」



 脅しの会話を聞いても俺の表情が一切変わらなかったのがしゃくだったようで、盗賊の1人が立ち上がった。そして、そいつは近くにあった戦斧せんぷを手に持ち……俺へと振りかざしてきた。




(…………遅い。)




 俺は右手に持っていたを使い、それを軽々受け止めた。


「な、なに!?」

「おいおい、子供相手に何を…………」



 盗賊たちの言葉は無視し……俺は言ってやった。












「死ね。」



「………は…死……?」



 掴んでいた斧を握り潰し、自分は左手を捻って魔法を使う。







『アグニの噴煙ふんえん





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