一章 花

六話 6年

 



 あの日……決意した日から、6年が経った。










「……よし、今日はここまでにするか。帰るぞウルス。」

「分かりました……師匠。」


 師匠にそう言われ、家に帰る支度をする。今日は随分と遅くなったので、すっかり日が暮れていた。


(…………少し物足りないかな。)


 最初の頃は血を吐き、何度も気絶を繰り返していた修行だが…………最近はそんなこともなく、むしろ軽い運動にまで感じられるほどには成長できた。

 しかし、グランさん…………師匠にはまだ到底及ばない。さすが英雄と言うべきだろうが……いつかは超えないといけない壁だ。


「……それにしてもウルス、大分強くなったな。称号のおかげでもあるかもしれないが……やっぱりお前には才能がある!」

「才能………それは無いですよ。」

「そうか? 飲み込みも早いし、俺が教えなくても十分強くなれてたと思うぞ。」


 森の中を歩きながら、師匠はそう言って俺を褒めてくれる。

 今俺たちがいる場所は師匠の家の近くにある深い森で、草木が大量に生い茂っていたり凸凹でこぼこの地形になっていたりと、修行をするには最低な場所ということで毎日通っている。


(今日も…………咲いてるな。)


 それに……ここら辺には綺麗な青い花があちらこちらに咲いている。別に何か思い入れも何もないが……………俺は、この花が好きだった。



(名前は……分からないけど。)





「………そうだ。ウルス、今のステータス見せてくれ。」

「はい、分かりました。」


 花をぼんやりと眺めていると不意に師匠にそう頼まれたので、俺は師匠に見えるように自身のステータスを表記した。




名前・ウルス

種族・人族

年齢・12歳


能力ランク

体力・374

筋力…腕・269 体・301 足・370

魔力・525


魔法・22

付属…なし

称号…【運命の束縛者】

   【記憶維持者】

   【龍神流りゅうじんりゅう継承者けいしょうしゃ】(龍神流を習得した者に贈られる)

   【化身流けしんりゅう継承者けいしょうしゃ】(化身流を習得した者に贈られる)

 



「ほう、俺がこのくらいの時はこんなに強くなかったが……追いつかれるのも時間の問題か。」

「俺がここまで強くなったのは、称号と師匠のおかげですよ。」

「がはは、そう謙遜けんそんするな。」


 俺の発言を師匠は笑い、軽く背中をバシバシと叩いてきた。


 ………師匠はこう言うが、称号の効果がこのステータスを作り出していることは間違いない。でなければ凡人だった俺がここまで強くなれるはずがない。




(……それでも、師匠には全く届かないけれど。)



名前・グラン=ローレス

種族・人族

年齢・47歳

 

能力ランク

体力・521

筋力…腕・495 体・520 足・552

魔力・805


魔法・30

付属…なし

称号… 【成人の証】

   【魔法まほうさい】(魔力や魔法に才能がある者に贈られる。また、この称号を持つ者は魔力と魔法の成長速度が上昇する)

   【魔法まほうきわめしもの】(神威級魔法を習得した者に贈られる。また、この称号を持つ者は魔力効率が超上昇する)

   【化身流継承者】

   【英雄えいゆう】 (国を脅威から救った者に与えられる称号)

   



 流石に、師匠の方がステータスは圧倒的に高い。俺みたいにステータス上昇のある称号があるわけでもないのに………本当に凄い人だ。




(………これが、英雄の実力。)



 称号に書いてある『英雄』……これは昔、魔物が大量発生した際に現れた最強の魔物・『ドラゴン』を倒した功績として特別な儀式で受け取ったそうだ。

 ちなみに、そのドラゴンを倒したのは師匠含めた神威級を扱える5人だそうだ。どんな人かは知らないが、師匠は…………




『どいつも面白い奴だぞ。』




 ……と、言っていた。一体どんな人たちなのだろうか…………




(………っ……………?)



 なんて考えていると…………不意に、何かの気配を感じ取る。



(……これは……声、いや……悲鳴……?)





「………どうした、ウルス?」

「師匠……あっちの方から悲鳴が聞こえました。」

「本当か? …………俺には聞こえなかったが。」

「でも、確かに聞こえました。誰かこの森にいるのかもしれません。」

「……じゃあ行ってみるか。あと、戦闘の準備もしておけ。本当に悲鳴だったら戦闘になるかもしれないからな。」

「はい。」





(…………嫌な感じだ。)





 そう思った俺は、足早にその悲鳴の場所へと向かった。



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