五話 託された

 



「……………ぅ…」


(…背中に柔らかいものを感じる。これは……ベッド?)


 目を開けると、そこにあったのは見慣れた焦茶色をした木ではなく、鮮やかで綺麗な薄い黄白こうはく色の天井だった。



(あれ、なんで………僕は家で倒れたはずなのに………?)






「おう、やっと目覚めたか。」





 その疑問に答えるように男の声が聞こえ、勢いよく起き上がる。


(………ぁ、傷が…………あれ?)


 つい反射的に起き上がってしまったが、確か怪我をしていたはず…だが、何故かゴブリンに受けた傷は治っていた。


 そんな僕の様子を見た男の人は話し出す。



「傷か? 傷は治しておいたよ。」

「……あなたは?」

「俺か? 俺はグラン=ローレスだ。どっかで聞いたことはあるだろ?」

「………あの神威かむい級魔法が使える伝説の魔法使いなのですか?」

「ああ、そうだ。俺が伝説の魔法使いってやつだが……よくその年で神威級の凄さが分かるな。」

「…お父さんが羨ましそうに言ってたので。」

「へぇ、そうなのか。」


 灰色と茶色の混じったローブを着た、薄い黒髪の中年ぐらいの男は笑いながら言う。


 グラン=ローレスは人間の中でたった5人だけが使える最強クラスの魔法『神威魔法』が使える者であり、数年前にその5人でドラゴンを討伐したという伝説の人物だ。村の人たちは確か彼らのことを『英雄』と呼んでいた。

 また、グラン=ローレスは数々の魔法を極めており、魔法使いなら誰でも尊敬する伝説の魔導師でもあるそうだ。


(………そんな人物がなぜ、僕の目の前にいるんだ?)



「……まあとりかえず、話すことが色々あるからな。こっちに来てくれ。」


 ローレスさんに言われた通り、ベッドから降り部屋を出てリビングらしき場所にあった椅子に座る。

 ローレスさんは茶を入れ、座って飲みながら言った。


「じゃあ、まずはそっちから聞きたいことを聞いてくれ。」

「……ここはどこなんですか?」

「ここは俺の家だ。俺は何かと目立つから、森の中に家を建てて隠居してるんだ。ここは自然豊かだし案外住み心地も悪くないしな。」


 ……確かに、ローレスさんは有名人なのだからそういうこともあるのだろう。それにこの人なら何でもできるだろうし、どこに居ようが不便はないはずだ。


 続けて僕は質問をする。


「僕はなんで……ここにいるんですか?」

「俺が倒れているお前さんを運んだんだ。俺は襲われた村があるっていう情報が入って向かったんだが、既に村は焼け野原。それで、魔力の反応を辿ってみたら……お前さんが倒れておったってところだ。」

「…………ほかに、誰かいなかったんですか?」

「残念ながら誰も……おそらく殺されたのだろう。」

「…………そうですか。」



 …………分かっていたことだけど……つらい。



「……お前さんはあの村出身だな。」

「はい……」

「すまんかったな、助けられなくて。」

「………いいえ、僕だけでも助けてくれて感謝しかないです。」

「……聞きたいことはそれだけか? じゃあ次は俺からだ。」


 ローレスさんは少し前のめりで聞いてくる。


「何故、お前さんだけ助かったんだ?」

「……お父さんが僕を逃してくれてくれたんです。その時ゴブリンが追いかけてきて、攻撃されたけどなんとか撃退しました。それで…村に戻ったら…………」

「……そうか…よく逃げ切れたものだ。あの様子じゃ相当なものだっただろうに…襲ってきたのは魔物か?」

「はい、魔物と…それを操っていた『盗賊』でした。」

「盗賊……そうだったのか。そのうち潰しておかないとな。」



 ……この人は、盗賊でも簡単に潰せるのか。



(……でも、僕には今更なことだ。)


「お前さんのステータスを見せてくれないか?」

「分かりました。」


 僕はステータスと唱え、ローレスさんにも見えるようにした。






名前・ウルス

種族・人族

年齢・6歳

 

能力ランク

体力・8

筋力…腕・11 体・9 足・12

魔力・7


魔法・2

付属…なし

称号…【運命うんめい束縛者そくばくしゃ】(???)

   【記憶維持者きおくいじしゃ】(他の記憶を持っている者に与えられる称号。違う世界の記憶の力により、ステータスの成長速度が極めて高まる)

 





「記憶、維持者……」


 ……僕の知らない称号が二つも付いている。しかも、その内一つは詳細が全然分からない。


「お前さん…ウルスは、前世の記憶が有るのか?」


 前世の記憶……あの頭痛の時に視えたものだろうか。


「倒れる前に頭痛がして、その時に視えました。僕も半信半疑ですが……」

「そうか、ちなみにどんなものだったんだ?」

「……魔法や魔物などが無く、この世界よりも技術が進んでいました。」



 ………ただ、それだけ。




「けど、結局同じで……親を殺した奴に、僕はやられてました。」

「同じ………か。」


 それを聞いてローレスさんは少し暗い顔をするが、彼はこう言った。




「同じでは無い…現にウルス、お前は前世とは違って生きてる。なら、今度は負けないように強くなれる…………そうは思わないか?」

「…………けど。」



 だけど、もうお父さんやお母さんは....……



「お前は父に生かされたんだ。だったら、生き残った者としてこれ以上同じことを繰り返すな。そのために、今は生きろ。もちろん、俺も手伝うし………強要はしない。けどな……………


















 ………ウルス、お前は強くなりたいのだろう?」




 そう言ってグラン=ローレスはある本を渡してきた。


 


(それは………!)



「お父さんの、本……」

「倒れてたお前が強く握りしめていたものだ……どうだ、俺の弟子にならないか? そして、誰よりも強くなって……守りたい者を守るんだ。」






 強く…………













『………ウルス、頑張れよ。』


















「....分かりました。」




 …託されたんだ。


 もう二度と……失いたく、ない。






「僕を……『』を鍛えてください。もう…誰も失わないように。」



(………俺は、今日から………最強を目指す。)




 もう二度も親を失った、これ以上……………
























 繰り返すな。

























 ────その日から、『俺』の物語は始まった。








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