第38話 社長、恋人のフリをして私の父に会ってください。 少年画報  塩野干支郎次 

 作者の塩野さんは基本はコメディ路線が多いけど、SFやダークファンタジーも描ける多芸な作家。代表作はやはり「ユーベル・ブラッド」でしょうか。

 まあその中にも頭の悪い面白い展開を入れてくれたりするのですが。

 基本的に頭の悪い作品を楽しく描いてくれるのですが、このまるでなろう系のような、つまり頭の悪そうなタイトルの作品。

 まさに冒頭から、タイトル通りの話ではあるのですが、出オチの作品ではありません。


 若く優秀な青年社長と、その秘書を務める美貌で優秀な秘書。

 その二人が優秀な頭脳を使って、馬鹿馬鹿しいことを真剣にやるという作品です。

「悪役令嬢転生おじさん」と同じヤングキングアワーズGHに掲載さているのですが、個人的にはこの雑誌、そこそこ楽しめる作品が複数ある感じ。

 個人的には長期連載の「おくさん」と「美味しいエルフ」もそこそこ面白い。

 完結したけどしおやてるこさんの作品も、中編でいい出来だったと思います。


 さて、なぜ恋人のフリをして父親に会わなければいけないかですが、ちゃんとまともな理由があります。

 社長に対して恋心に等しい忠誠心を持っている秘書さんは、会社のために社長のために、そして自分のために偽装婚約を持ち出すのです。

 しかしここから恋愛経験の微量な秘書さん、本人は真剣ですが社長からツッコミが入るような、斜め上の解決法を出してくるわけです。

 それを下手にツッコミをいれず、淡々と冷静に指摘する社長も面白いのですが、それをさらに上回る暴走をする秘書さん、頭いいのにアホ可愛い。

 頭のいい人がバカなことをするとこうなる、という展開とでも言えばいいのか。


 この作品の魅力の多くは、頭はいいのに頭が悪いことを考える、ちょっとだけ自分の欲望に正直な秘書さんが担っています。

 社長はまあ、リアルでもフィクションでもモゲロ、とか爆発しろとか言われそうな感じですが、秘書さんに振り回されながらも真摯に対応するのが、こっちもアホ可愛いです。

 なんというか「ばっかで~」と嘲笑うのではなく「バカでいいんだ!」と開き直って楽しむのが楽しみな作品ですね。

 コメディと言うよりはギャグに近いのかもしれませんが、本当に人間の出来る範囲のことしかしないという点で、ちゃんとしたコメディですね。

 個人的に一番社長に同意したのは、鼻血を出した秘書さんの画像も念のために撮っておくシーン。

 そうだよね、普段はキリッとした秘書さんのお間抜けな姿、可愛いよね。

 まあ社長もいい年して彼女に猫耳つけさせたりする程度には趣味人ですが、猫耳計画は確かにツボに入ると思う。


 ここまで文章を書いてきましたが、おそらくこの作品の魅力は全く伝わらず、訳の分からないことになっているかもしれません。

 ですが大丈夫。ネット全盛のこの時代、冒頭一話ぐらいはどっかを漁れば読めるのですよ。


 いつでも終われるけど、ずっと続けていくことも出来る。

 自分の恋心を自覚した秘書さん、胸の動悸の正体を検索して病名を探すなど、優秀だけど残念な人の姿です。

 2021年四月の段階でまだ一巻しか出ておらず、6月ごろには二巻が出る模様。

 だらだらとは続かないだろうし、しっかり内容を毎回変えてくる良質のコメディ。

 自分で言うのもなんですが、フリーレンの後にこれを紹介するって、私の振り幅は本当に広いと思います。

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