第13話 その十三 究極超人あ~る  ゆうきまさみ 小学館

 多作の作家で、そのうちのほとんどが平均レベルよりも面白い作品を描く漫画家というのは、けっこう存在する。

 ゆうきまさみはその中の一人で、機動警察パトレイバー、じゃじゃ馬グルーミンUP!、鉄腕バーディー、白暮のクロニクルあたりは佳作以上と言っていいだろう。

 その中でも彼の出世作で、時代を大きく先取りしていたと思われる作品が、究極超人あ~るである。

 究極超人あ~る。主人公の名はR・田中一郎。アンドロイドである。

 普通の学校から微妙にはずれた学校にある、普通に近いが普通ではない部活、光画部。

 普通に言えば写真部なのだが、学校の中という小さな社会の中で、さらにこの部活は小さな社会を形成している。


 撮影のためのロケ。生徒会長との戦い。あ~るとはそもそも何者なのか。

 日常と非日常が小さな空間の中で繰り返されていく。

 後にセカイ系と言われる作品の中の、最も原始的な形がこの漫画ではないであろうか。


 作品の中で時間は流れ、先輩は卒業しながらもOBとして遊びに来る。

 同級生も先に卒業し、公務員として働き出す。

 その中であ~るだけは単位が足らずに高校という空間から出ないのである。


 あ~るの製作者である博士は頭はおかしいが間違いなく天才で、世界征服を目指している。

 あ~るには兄や姉がいて、それぞれ27号とか26号と呼ばれている。

 高校時代の部活。それは80年代には青春を描写する舞台装置であったはずだ。しかしこの作品においては、舞台装置が奇妙な空間を演出してしまっている。

 アンドロイドがいれば幽霊もいて、世界征服を阻止するためのおまわりさんもいる。だがどこまでもこの作品の世界は、箱庭的である。

 例えて言うなら、現在のネット空間で存在する箱庭が、部活動の中に閉じ込められているような感触だ。


 学校の中での戦争や、部室争奪戦など、後世に残る漫画の形態の多くを、この作品は秘めている。

 パトレイバーやじゃじゃグルが外部からの情報を多く含んで作られた作品であるのに対し、この作品には作者の根本的なイメージが感じられる。

 全9巻と長くはなく、そして時代背景が古く、全ての人に愛される作品でもないと思う。


 だがこの作品の価値は、青春描写を泥臭く暑苦しく、そして身近に感じさせたことにあるのではなかろうか。

 ぶっちゃけ娯楽的に面白いのは、パトレイバーの方だろう。正直私は今でも、パトレイバー2の連載しないかな~と見果てぬ夢を見ていたりする。


 非日常の中にある生活感。

 たとえばイングラムの中にいる野明は、汗臭くて着替えたいとのたまう。

 ストライクイーグルの最強馬的な中にある扱いづらさ。

 ゆうきまさみの作品には、これまた言えば、リアリティがあるのだ。


 今オススメするなら、完結したばかりの白暮のクロニクルでいいだろう。(現在はまたスピリッツで歴史物を書いている。その間にマンガ家マンガも描いている)

 この作品の非日常は吸血鬼という存在だが、それが日常の中で生活している。

 ゆうきまさみ、まだまだ活力を残したこの作家の次回作に、やはり私は期待するのである。


×××


 なんとスピリッツで不定期連載していたものが10巻として発売した。

 変わってないなあw

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