第12話 その十二 風の谷のナウシカ  宮崎駿 徳間書店

 映画版のネタバレがあるので、未見の人は注意。まあ国民的なアニメですけどね。


×××


 へ? と言った人は若い人であろう。

 これはマンガレビューである。アニメレビューではない。そのうち番外編でアニメレビューもしたいと思ってはいるが。

 風の谷のナウシカを知らない人間は、まずいないだろう。まあ子供さんなら分からないが、かなり年配の人でも知っている。金曜ロードショーで何度も放映されているからだ。

 しかしこれのマンガ版があるということは、あまり知られていないのではないだろうか? 特に昨今の若者は。

 全7巻、しかも薄いページ数でありながら、この作品はアニメージュにて長期連載されていた。

 完結した時は、これで本当にナウシカは終わったのだな、と思った。

 ちなみに昨今のジブリ作品を見る限り、私はナウシカの続編でも作ればいいんじゃね? と思う。


 作品のテーマは同じである。荒廃した世界。毒の森。異常発達した生物など、世界観もほぼ同じ。

 しかし物語性はこちらの方が波乱に富み、結論も映画とはまた違うものとなっている。

 物語の流れも全く違い、トルメキアの他にも強大な国家があり、戦争の描写が多い。

 そして何より、映画より後の世界というものを描いている。


 映画版のナウシカは、人類の愚かさと、汚染された中でも再生していく地球の強さ、そして人間の強さを描いている。

 やがてまた繁栄し、腐海の森を踏破するだろう。そんな前向きのメッセージを感じる。

 ナウシカが青い衣をまとったところで、映画は完結している。伝説の達成によって物語が完結するという、申し分のない結末である。


 だがマンガ版は、そこからまだ先に話があるのだ。

 汚染された世界の中のどこかにあるユートピア。そこを目指してナウシカたちは行く。

 巨神兵の扱いも違い、クシャナの兄たちも登場し、この世界の本当の秘密にも辿り着く。

 そしてそこで示される事実は、ある意味絶望を与え、しかし今を生きる人々の強さを示すものであるのだ。


 映画で感じたイメージを、損なうことはない。なにせ作者が監督の宮崎駿であるからだ。

 彼が2時間以下で表現した物語を、漫画では何年もかけて語りかけてくる。

 映画を見た感動を忘れることはないし、世界観を崩壊させるような野暮なこともしない。

 だがマンガを読むことによって、より作品の深みは感じられるようになるだろう。


 しかし……作品自体の評価とは全く別なのだが、コミックはもう少し良い紙を使えなかったのだろうか。

 当時の徳間書店はマンガの単行本を出すことなどほとんどなかったので、そのあたりの配慮が感じられない。

 こういった名作は長く本棚に置かれ、劣化するのを防ぎたいと思うのはマンガ読みにとって当然のことである。

 ちなみに完全版というバカ高いものも出ていたが、当時私のバイトしていた書店では完売していた。


 風の谷のナウシカ。最近の宮崎映画についていけない人は、マンガを読んでみるのもいいかもしれない。

 ちなみに私の宮崎アニメベストはナウシカで、次がラピュタである。

 私の周辺の人の言っていることだが、ハウルあたり以降は、見ている子供が途中で愚図ってしまうそうだ。風立ちぬも、若い人には評判が悪かったようだし。

 まあそれは監督の表現したいことが変わったということで、黒澤の晩年もそうであったから、まあ仕方ないのだろうが。


 初期のワクワクドキドキの冒険活劇を見たいなら、マンガ版をまず見てみよう。

 ちなみに私の作品の重要人物(?)は全て宮崎作品から名前を頂いている。(竜の血脈のことである)

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