第9話 その九 みどりのマキバオー&たいようのマキバオー  つの丸 集英社

 まず、言いたい。この作品には不思議なリアリティがあると。

 馬が喋る作品のどこがリアリティか、と言われるとリアルとリアリティは違うと答えるのだが。


 まず最初のマキバオー。ミドリマキバオーは、その犬ほどしかない体の大きさからして、いきなりギャグである。

 しかしそれ以外の部分、ミドリの血統や騎手の選び方などは、極めてリアルに近いのです。

 ギャグ以外の何者でもない作品のはずなのに、マキバオーの血統は一流です。母親も一流馬であったので、実は外見以外平凡だったマキバオーが意外な才能を見せる、というのは成立していません。

 マキバオーは強いのです。そしてそのライバルとなるカスケード、これが強いだけでなく気高い!

 世界観は間違いなくギャグに近いのですが、努力、根性、友情、勝利とジャンプ的な要素がこれでもかと入っています。


 特に有馬記念『幻のカスケード』などは感動させてくれます。カスケードほどの敵とも友とも言えるライバルは、それこそ北斗の拳のラオウぐらいかと思わせる。

 マキバオーが見せてくれるのは、魂の走りです。真っ向から見せつける、ど根性の走りです。

 競馬物でやる夫を書いていた時、現実の同着についての熱い議論がなされたこともありましたが、フィクションではあるがマキバオーとカスケードの同着対決を挙げる人もいました。

 みどりのマキバオーは、その絵柄などは関係なく、熱い魂を輝かせる、少年漫画なのです。


 そして言いたい。

 第二部はなんだったのかと。

 普通に国外挑戦でよかったではないかと。競馬の各国団体戦など、リアリティさえありません。

 みどりのマキバオーは、第一部と第二部の最終話だけで終わっておけば良かったのです。




 さてたいようのマキバオーですが、こちらはマキバオーの甥にあたるヒノデマキバオーが主人公。

 なんだかんだ言って王道を走っていた先代とは違い、ヒノデマキバオーは公営高知競馬という、どう言ってもエリートコースからは外れた凡馬として扱われます。

 そしてこの続編にもまた、リアリティがあるのです。地方競馬の収入減と廃止という、寂しいリアリティが。


 マキバオーは更に足に故障があるというハンデまで背負って、高知競馬のアイドルとして、勝てないまでもえんえんと走り続けるのです。

 それが変化したのは、フィールオーライの存在でしょうか。

 先代のライバルカスケードとは違って、フィールオーライは無敗の三冠馬。しかしとある縁からマキバオーの親友となります。

 ダート馬のマキバオー二世と違って、彼の目標は凱旋門賞。その影の存在として、マキバオーもダートの部門で力をつけていき、遂にG1ホースとなるのです。さらには海外にまで挑戦します。


 しかしここから物語は急変。

 マキバオーは何のために走るのか。それを問い詰められます。

 それに対して彼の出した結論は、芝への挑戦。

 そして凱旋門賞への挑戦というのは、日本馬全ての目標となるのです。


 凱旋門賞。その結果はある意味意外であり、実のところ王道でもあったと思います。

 そして最後に残るのは、やはり受け継がれる魂。

 序盤の地方競馬の現状、そこからの飛躍。そして悲劇に、それを乗り越える主人公。

 まさに王道と言えるでしょう。そして主人公は、納得を得るのです。

 これはマキバオーが、勝利とか栄誉ではなく、それよりも尊いものを得る物語。

 前作の登場馬たちも出て、読み続けている人にはクスリとさせられる部分もあります。


 勝利がなくても、そこに達成感がある。

 まさに魂を燃焼させる、あしたのジョー的な物語。

 競馬マンガの最高傑作は、おそらくこれだと思います。

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