視点B
どうしようもなく怒っていた。私が怒っていた。
目の前で彼が押し黙っている。彼の前で怒ったのは初めてだった。
今日も朝から2人で出かけて、そろそろ彼の家から帰ろうとしていたのに。
「次会うのいつにする?」
そんな会話になった時、彼はこう言った。
「うーん、いつでもいいかな、大丈夫。」
そう、これはいつもと同じ返答だ。私が明日って言えば明日会えるし、
2週間後って言えば2週間後になるし、5年後って言えば5年後になる。
決定権はいつも私にあった。というか、私にしかなかった。
ここ1ヶ月くらいずっと考えていた。
私たちの付き合い方は、本当に正しい形なのかどうか。
出会った時から彼はわりと無口な人だった。
新歓の飲み会でも率先して話すタイプではない。いつも誰かに話を振られないと話さない、そんなタイプだ。
サークルの部室では何度か会って、2人でいるタイミングがあった。
初めて会話したのはこの時だ。
私は当たり障りない世間話ばかり話してしまったけれど、彼は必要以上に喋ることはなかった。普段なら、沈黙に耐えられずにもっと焦って話して笑われてしまうところなのに、私は何故か気持ちが落ち着いていたのを覚えている。
それから何度も話すようになって、出掛けるようになって、映画を観るようになって、それから付き合うことになった。
私が言い寄った結果だったけれど、とても楽しい日々だった。
それがいつからこんなことになってしまったんだろう。
こんなにもイライラしてしまうなんて。
こう考えているのは私だけなのかもしれない、私の思い込みなのかもしれない、そう考え始めると、考えは止まらなくなった。
彼は本当に私のことを好きでいてくれているの?
反論するのが面倒くさくて、それで私に合わせているだけじゃないの?
......私は、
合わせてくれる彼だから好きになったの?
私は泣きながら話した。彼はじっと聞いている。
聞くだけで何も言ってくれないから、私はどんどんヒートアップしてしまう。
「どうして何も言ってくれないの?」
「こんなんじゃ私、独りよがり過ぎるよ......」
彼が口を開く。
ねぇ。お願いだから。あなたの気持ちを教えて。
私が独りよがりじゃないって、私の好きが本物だって、
お願いだから証明してよ。
「ごめん、本当にごめん。」
彼はそう言って、黙り込んでしまった。
私は待った。次の言葉をずっと待ったけれど、それは現れなかった。
聞きたい言葉は、「ごめん」じゃなかったのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます