第2話 新たな人生~記憶の継承

「ひとつになる?俺とキミがか?」


「そうだよ。僕の中にあるこの20年の記憶と人生は今からキミのものになるんだ」

そう答えた後、[彼]は少し難しい顔で言葉を紡いだ。

「僕なりにしっかり生きてきたつもりだけど、キミとは性格に違いはあるから。キミにとって僕の記憶がどう映るかはわからない。それなりに良い子に真面目にやってこれたとは思ってるよ、我ながらね」

くすりと少し笑った後、打って変わって真剣な表情をこちらに向けてきた。

「僕の人格は間もなく消える。その前に試しにキミの頭の中に僕の記憶を流し込む。これからはこれまでの[僕]はキミのものになるんだから。あまりにもキミの意とかけ離れていたら急には受け入れられないかもしれないからね」

彼はそっと手を伸ばし俺の頭に軽く触れた。

掌からボンヤリとした光を放つ。

同時に初めて見る景色や自分の知らない[俺]の行動が頭に流れ込んできた。


街の中で行く先々で困っている人がいれば分け隔てなく助ける。

差別、区別することなく優しく温かく、どんな状況も良き方向へ導く。

包容力と善意の塊。

正義感とはこういうものなのだという皆の手本。



姿形は今の[俺]そのものだが間違いなく中身はこれまでの20年を俺の代理で生きてきた[彼]である。

なるほど。相手の気持ちや状況に共感したうえで、その時々の今とるべき行動に出る。

とっている行動は前の人生を生きていた俺とほぼ同じと言えるが、心根がまるで違う。

俺には共感はできないわけだから『相手に寄り添う』という感覚は芽生えない。

「こうすればいいのだろう」「こうするべきか」というあくまでも状況に適した判断をしてるにすぎない。


「よくわかった。俺とお前とでは全くの別人というわけか。うまく演じるよ。」

周りの人間に違和感を与えては面倒だ、と考え[彼]に向けてこう伝えた。


「やっぱりキミはキミのままなんだね。…サイコパスか。…まぁ別に悪さをしてきたわけじゃないし、キミの考えで生きてみてよ。じゃキミに全てを渡すね」

そう言った[彼]の声は遠くなり、気配も薄れていき、やがて消えていった。


ゆっくりと目を開ける。

別人各の彼の記憶が移されたせいか見慣れない物が並ぶ部屋にも妙に馴染みを感じた。


この世界で、この体で、俺のままで新たな人生を生きていく。

なんとも数奇で難儀な異世界?ライフの始まりか。

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