第3話 バルザック家

俺はサクト・バルザック。年齢は二十歳。

中身は元日本人の羽崎朔人という。

日本で生きていた頃に急性心不全で死亡。

その後、異世界アストレアに転生。

ただし俺とは別人格の仮の魂が育てた体に二十歳で覚醒。


…という小説や漫画ですら読んだことも聞いたこともない複雑で面倒な異世界転生をしてしまったのだが。

既に全てを受け入れ、当たり前のように生活をしているのだから慣れとは恐ろしいものだ。


この世界での俺の生活においての当たり前とは『狩人』(ハンター)という仕事を生業としている家系で育てられ、父の仕事の手伝いを幼少期に開始。(正確には仮の魂がこの体で幼少期を過ごしたわけだが)

ちなみに狩るのは食肉用の動物や畑を荒らす害獣などではなく、日本で生きていた頃には現実では見たことのない狂暴な生き物、俗に言う怪物(モンスター)である。

要するに毎日が命懸けというわけだ。

その命懸けというのも他の狩人にとっては、という意味でなのだが。


バルザック家は狩人の中でも最上位に位置する家系で最強の名を欲しいままにしてきたのだ。

A級モンスターだろうがS級モンスターだろうが問題にならないほど無敵の一族。

剣、魔法、弓、槍、銃砲火器、格闘術。戦闘技術オールマイティーな無敵っぷり。

日本人として生きていた頃は読んでいてなんとなく恥ずかしく感じていた中二病的チート主人公のような人生が待っていようとは。


しかしまぁ…思っていた異世界とはだいぶ違うな。

剣だ魔法だは想像どうりだが、文明は進んでいて普通に電気やガスは通っていて列車も車もある。

テレビもあってその画面には日本と大して変わらず、様々な良いニュースと悪いニュースが流れている。

モンスターの被害や討伐に関するニュースなんかは異世界味があるが、こちらの世界でも人間が起こした事件や事故は連日流れている。

どの世界でも人間の欲望や過ちは尽きることはないようだ。


そんな世界なのでこっちの警察も手が回らず、我々バルザック家をはじめ、一流の狩人には裏の仕事として犯罪者の暗殺も回ってくる。

モンスターの討伐なんかよりこちらのほうが遥かに儲かる。流石は裏家業、闇仕事である。


殺人事件の被害者の中には狩人もいる。

この世界アストレアの加害者は当然のように異能を持つ者だったり、魔法や武術を極めていて戦闘能力が高い。

そんな輩相手に若手や欲をかいた古株ハンターが一流ハンターの真似事をして荒稼ぎしようとした結果、返り討ちにあうこともざらにある。


一流の中でも頂点に君臨するバルザック家の現当主である父、カイル・バルザックは俺に己の力を見誤るなとさんざん叩き込んだらしい。(本来の俺が覚醒する前の20年に)

だから自惚れることなく慎重かつ真面目に己の体を鍛え、技を磨き、段階を踏んで戦う相手のレベルを上げていき、二十歳を迎える前にはS級モンスターは勿論、名だたる狩人や闘士を葬ってきた悪党をも軽く片付ける。

世界中の悪党が恐れる存在になりつつある。それが今の俺だと。


狩人を継いで、闇仕事も請け負う。

父カイルは正義感を持って自身の手を汚してきたわけだが。

なにぶん、俺はサイコパス。正義というものに関して全くピンときていない。

むしろヤるからには楽しめばいいじゃないかとすら思える。

俺が以前に生きていた世界でも狩りを趣味とする人間はいた。

それこそ何の罪もない動物を趣味と言って狩るのだから残酷なものだろう。

なら凶悪な怪物や魔族、ましてや凶悪犯なんかは楽しく狩るにはうってつけの獲物だと俺は思った。


まだ父にはとても言えることではないが。

何せこの間までは父と同じく、正義感に溢れた青年の魂がこの肉体に宿っていたのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る