異世界ヒロイズム~サイコパスとJKは転生犯罪者と戦争する
MASU.
第1話 プロローグ~欠落~
名を羽崎朔人という。
ある朝、突然俺は死んでいた。
急性心不全というやつらしい。
大学2年の夏、呆気なく終わりを迎えた人生。
後悔など特にない。今までの人生に執着も愛着もない。
家族は一般的に見て良い家族だっただろう。
とある大手出版社の社長の父。専業主婦の母。
優しい祖母と祖父。
友人というものもそれなりにいた。
端から見れば恵まれた幸せな人間だったのだろう。
しかし、俺はこれまで何ひとつ、誰にも『共感』というものを覚えたことがない。
例えば先日迎えた二十歳の誕生日。
「ひとつ大人になった」「今日まで無事生きてこれた」などと特に喜びもなく、実感もない。
生きていれば歳を重ねるのは当然である。
そうして死に向かっていくだけ。
バースデーケーキやプレゼント。正直、無用だ。
父と母がこれまで俺を育て、今日まで命を紡いできた喜び。それらを頭では理解はできるが。
どうにも心に響いてはこないのだ。
などと考えつつ、周りの祝福にはちゃんと「ありがとう」と笑顔で応える。
『共感』こそできないが『状況判断』のもと適切な対応くらいはできる。
まぁ周囲の人間の誰一人として空気を読んだ芝居だとは気づいてはいない。
日常のコミュニケーションにおいて『芝居』を完璧にこなし、好感と信頼を得る。
相手も悪い気はしないのだから何の問題もないだろう。
渇いた思考、冷えた感情。
表面上で見せる喜怒哀楽。
誰も疑うことのないほど【完璧な笑顔】と【完璧な状況判断】で得た情や絆のようなもの。
自分と他人のズレに違和感こそ覚えるものの、俺にとっては幼い頃から他人の気持ちがわからず、それが当たり前であり、未だ疑問もない。
横たわる抜け殻になった自分と悲しみにくれる家族、友人。
その光景にすら共感することもなく、せいぜい『同情』を覚える程度。
死んだ自分の姿にも「早かったなぁ」「呆気ないなぁ」とまるで他人事のような感じで見ている。
何か大きく欠落した人間。それが俺なのだろう。
漠然とした自覚はあった。
「死んでも俺はこのままだな」
能面顔でつぶやいた。
すると透けた体。霊魂というやつだろうか。
それが少しずつ光の粒のように散り散りになって消えていく。
「あぁ、天に召されるってこんな感じなんだな」
そう思い目を閉じて「じゃあな、みんな」と自分の死を悼む家族と友人に別れを告げた。
…微睡むような感覚の中、目覚めた。
目覚めた?全て夢だったのか?
いや、確かに眠っている最中に迎えた死ではあったし夢オチでもおかしくは…
しかし、記憶としてはっきり残っている家族や友人の泣き顔、それを見つめて申し訳ない感覚を覚える俺。
夢だとはとても思えないリアルな体験として脳裏に焼き付いている。
あれこれ考えていて覚醒しきった頃、ふと気づく。
「ここ…どこだ?」
俺は全く見覚えのない部屋にいた。
何かよくわからない機械が部屋の隅に並んでいて、机や棚には異国の文字で書かれた書物や何に使うかわからない道具が並んでいた。
窓の外に目をやると見たことのない形状の建物や変わった格好の人たちが目に飛び込んできた。
俺の部屋でないばかりか俺が知っている世界ではない?
眩暈を覚えるほどの強烈な違和感と困惑の中、ただ頭を抱えて座り込み、思考を働かせ、己の現状把握に全力を注いだ。
まぁ…無理だわ、こんな異常事態。
思考も限界に達しようとしたその時、頭にキンッと痛みが走った。
「!?痛っ!」
一瞬の激しい痛みに頭を押さえて、その場に踞った。
すると聞き覚えのない少年のような若い男の声が響いてきた。
「サクト…サクト。やっと起きたんだね?」
その声は頭の中に直接語りかけてきてるようで気味が悪くなった俺は少しの動揺を覚えながら「誰だ?何処から話しかけている?」と辺りを見回した。
ふと視界に入った自分に気づいた。
見たことのない青年の姿。二十歳前後の姿をしたまるで別人の俺。
再びパニクりだした俺にまた不思議な声が語りかけてきた。
「キミは、キミの名前はサクト・バルザック。元は、つまり前世は羽崎朔人。そして僕はこの世界での20年を仮のキミとして生きた魂であり記憶。覚醒した前世の記憶と人格を有するキミとこの世界で新たに生まれたキミとして生きた僕がひとつになる時が来たんだ」
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