相談

「ねえ、告白されちゃったよ」

急に家に遊びにきた幼馴染の沙耶香さやかは、いつも通りに俺の部屋へやってきて我が物顔で床の座布団に座り、勝手に話し始めた。

「自慢しにきたのか?」

「違うっ!陽生ようせいに話を聞いてもらいたくてきたのっ!」

俺はため息をついて読んでいた本を閉じ、椅子から立ち上がった。

「とりあえず、なんか飲み物持ってくる」


  ◇◇◇


時は1時間ほど前に遡る。

委員会を終え、帰り支度を済ませた沙耶香が廊下を歩いていると、後ろから同じ委員会の男子が沙耶香の名前を呼ぶ声が聞こえた。

走ってきたらしく、少し息が上がっている。

——どうしたの?

——いや、大したことないんだけど、一緒に帰りたいなって。

彼とは同学年だが違うクラスで、接点は委員会だけ。だが、月に2度委員会は開かれるのでよく話す。

——だめかな?

——ううん、今日は1人だから大丈夫だよ。

——よかった。

彼はほっとした顔で笑った。


「……で、その帰り道で告白されたと」

「そうなの……正直どうしたのかなとは思ったんだけどまさか告白されるとは……」

俺が淹れてきたココアをちびちびと飲みながら、だんだんと元気をなくす声で沙耶香は話してくれた。

「それで、なんて返したの?」

「保留にしてきた……混乱しちゃって……」

「あー……お前告白とかされたことねぇもんな」

「陽生だってそれは同じでしょ!」

「あ、ばれた?」

舌を出すと沙耶香はため息をついた。

「もう……とりあえずなんて返事しよう?……こういうときってどうすればいいんだっけ?」

「返事は決まってんの?」

「うん。ノーで。LINEで送るつもり」

「まじで?てっきり付き合うもんだと思った」

「だって別に好きな人いるもん」

沙耶香の言葉に俺は内心びっくりしてしまった。

沙耶香から恋バナを持ってくること自体が以外だったのに、その沙耶香に好きな人がいるとか驚きしかない。

「なら、好きな人いるから付き合えませんーとか言っとけば?」

どこかふてくされたような声になってしまった。幸い沙耶香はそのことに気づかなかったらしい。

「それはそれで言うの恥ずかしいし、誰?って聞かれかねないからだめ。できるだけ相手傷つけたくない」

「でも付き合えないって言ったら普通になんで?とは言われるだろ。あと100%傷つけないとか無理だし」

「だから相談してるんだし!一緒に文面考えて!」

沙耶香が取り出したスマホに、案をまとめたりうっかり書きかけの文面を送ってしまうことを防ぐためにメモ画面を開いて、あーでもないこーでもないと2人で言い合い、結構な時間をかけた結果、とりあえずの文面は出来上がった。

「じゃあこれ、明日送ろうかな」

「今すぐ送らねぇの?」

「なんかちょっと恥ずかしいから……」

「ふーん」

恥じるのがよく分からなくて首を傾げた。

「ありがとね」

「いや別に。俺はちょっと助言しただけだし」

「でもだいぶ落ち着けたから。陽生がいてよかった」

「そっか。……そういえば沙耶香の好きな人って誰?」

「ふえっ!?」

ちょっと照れくさくなってしまい、話題を変えてみたら思っていた反応じゃなくてびっくりした。

「沙耶香?」

「あ、ううん!なんでもないよ!」

「そう?で、誰?」

「誰でもいいでしょ!」

「え?なんで?」

「なんでも!」

なんか沙耶香の頬が赤いのは気のせいだろうか。ここまで言われると逆に知りたくなってしまう。

「いいじゃん、教えてよ」

「無理!」

「俺と沙耶香の仲だろ、めっちゃ気になるんだけど」

「どんな仲よ!」

「幼馴染」

「いやそうだけど!無理なものは無理!」

「え〜なんで」

「うるさい、告白なんてできるわけないでしょ!」

「……は?」

「〜〜〜っ帰る!じゃあねっ!」

バタバタと慌ただしく部屋を出て行った沙耶香に、俺はポツンと部屋に残されてしまった。

「告白?」

窓の外を見た。赤い夕日に照らされて、空は赤く輝いていた。

自分の頬が赤い気がするのは夕日のせいだろうか。

「……こういうときってどうすればいいんだっけ」

追っかけたりとかした方がいいんだろうか。


とりあえず俺は立ち上がって部屋から出た。

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恋な話の切れ端語り 陰陽由実 @tukisizukusakura

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