落ちた花びら

「秋華、帰るぞ」

「あー大河まってー、里穂ちゃんじゃあね」

「じゃあねー秋華ちゃん」

教室でいろいろ話をしていた里穂ちゃんにリュックを担ぎ直しながら手を振って、声をかけてくれた大河のところに行った。

「毎日わざわざ私に声をかけるなんて大河もぼっちを拗らせてるね」

「俺は人並みに友達はいるが?」

「私がいなかったら大河は今頃一体どうなっていたことか」

「話を聞け」

大河とは幼馴染で、小さい頃から家族ぐるみの付き合いがある。男子の中では1番仲良しな存在だ。今でも登下校は大抵一緒。

先に言っておこう。私達は付き合ってない。

登下校同じなのは小さい頃からのなじみでずるずるだらだらと今の今まで引っ張ってきてしまっているからであって別にそういうやつの関係ではない。断じて。

まあ私はこっそり想ってたりもするけど。

「桜の木もだいぶ緑になったねぇ」

「だな。1ヶ月前はピンクだったのにな」

歩きながら他愛もない話をしていたら、通学路にあるやや長くてちょっと急な階段のところに来ていた。この階段の脇道には何本も桜の木が植わっていて、満開になるとそれはそれは見事な景色になるのだ。今はもう立派な葉ばかりになり変わっているが、よく見るといくつかの花びらがまだしぶとく引っ付いていたりする。

「いっつも私思うけどさ、こんなところに桜あるのちょっともったいないと思う」

「なんで?」

「だってここ階段じゃん?階段降りるとき足元見るからここの桜って他のところに比べて見る人少ないんじゃないかなぁって」

「確かになぁ」

現に今、私の視界にあるのは自分の足と階段だ。

「水溜りがいつもあればいいのにな」

「なんで?」

今度は後者が私だ。

「水溜りあったら水に映るから下見ながら桜見れるじゃん」

「確かになぁ」

「あと散った桜あるし」

「すぐ茶色くなるけどね」

ふふっ、と笑って私は最後の段を降りた。そして桜を振り返ってみた。

「……あそこは森かな?」

「林ですらないと思う」

「だよね。ただの道だよね」

それくらいに緑がわさ———っと元気に生えている。

「私ね、ピンクじゃないときの桜も好きなの」

「変わってるな?」

首を傾げる大河に私はうん、とうなずいた。

「だって花が咲いてるときだけが桜じゃないもん。今みたいに緑がわさわさしてるときも葉っぱが変色して落ちるときも枝の先に芽がついてるときも桜じゃん。見る人そんなにいないけど、春以外でも桜って頑張ってるなーって思うし」

「まあ分からんでもないな」

「お、理解者発見」

別に今まで誰かにこんな考え方を否定された、というか話したことなんてないと思うけど、それでも少しは理解してくれるのが嬉しかった。

「大河ってなんだかんだ言って私の突然語り出したこと理解してくれるよね」

「さすがに慣れた」

「なんですと」

よし、ちょっと大河をからかってやろう。

「まあでも私大河のそーゆーとこ好きだよ」

「……俺も」

「へ?」

「秋華の考えることおもしろいし好きだ」

「……え?」

ちょっとそっぽを向く大河の頬が少し赤く見えるのは気のせいだろうか。


これからあつくなるのは、気温だけじゃないようです。

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