第14話 エレス


                  *


 部屋のドアをノックする。

「入れ」

「はい」

 短い返事に答えて、エレスはドアを押した。中に踏み入れ、静かにドアを閉める。部屋は黒を基調とした家具で揃えられていた。かなり前に入った時と何ら変わっていない。この空間は安心するが、嫌いだ。息が詰まる。まるで刻々と闇が迫ってきているようだ。

 声の主は顎でソファを示す。エレスは座る。目の前の瞳がエレスを鋭く射る。

「マゴラに接触しました。いつも通りにすると、今日は雰囲気が違いました。まるで別人のようでした。ですから報告をと」

「ふむ。継続時間は」

「一分にも満たなかったかと。すぐに消えました」

「発した言葉は」

「私にこれ以上何かするつもりか、でした」

「行動は」

「一人の腕を掴んだだけです」

「そうか。引き続き行え」

「わかりました」

 声の主はエレスの返事を待たず手元の薄型機械に視線を戻した。エレスはその様子を見て、ソファを立った。

「涙の方はどうなっている」

『はい』

 背後から通話の声が聞こえ始める。気にせずに部屋を出た。居場所を失わないために、生きていくために、ただ命に従う。それだけだ。


                    *

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る