覚醒
第12話 ポップンわたあめ
「ごめんね……今日も小さいままで」
「いいよ! この方が楽しい!」
マゴラは昨日と同じ場所、ジェネンダ・レオパスの銅像があるところまでやってきた。アジャスト設定機の使い方はわからないので今日も鈴子と凜太は小さいままだ。今日は爆発が起こらなかったので、そこだけはよかった。
「なあ、マゴラ! どっか連れてって!」
「行きたい! 面白いところ!」
「あー……うん……」
好奇心旺盛な年頃だ。森林街だけでは満足できないのだろう。だが徒歩で行ける場所と言えば、宇宙街、城下町、高貴街、人民街くらいだ。公共交通機関を使う手もあるが、遠出は危険が大きい。宇宙街はだめだし、高貴街に入ることは躊躇われる。城下町はほぼ行ったことがないので土地勘がない。つまり残るのは一つだ。
掌を見る。双子が満面の笑みで見つめている。
「……僕の街、行こうか」
鈴子と凜太は大きく頷く。マゴラは苦い思いで、二人をポケットに入れる。人民街は地球の街と大して変わらない。
マゴラはベンチから立つと、森の中を抜けていった。森林街を出ると、城下町の壁に沿って歩いていく。今日は雲一つない快晴だ。道が光を反射して輝いて、時々飛行車の影が道を黒く染める。
「空飛ぶ車!」
ポケットから鈴子が大声を出す。
「あれは飛行車。そうだね……空飛ぶ車」
答えるとポケットから「すげぇ」など歓声が聞こえる。どうやら二人にとって珍しいものみたいだ。確かに地球内でこのような機関を見たことはない。楽しそうにポケットではしゃぐ二人の声を聞きながら、マゴラは大通りを進んでいった。
程なくして人民街の入り口が見えてくる。街を仕切るための門を通り抜けると、熱気がマゴラを襲った。人々が入り組んだ街を闊歩している。露店が道に並び、客を呼んでいたり、高い建物の上からチラシが降ってきたりする。小型の羽根つきロボットが自在に飛び、店の商品を売って回っている。
少し騒がしすぎるくらいの様子だ。でもどこか明るく温かい風景。マゴラにとってはいつもの風景だ。
「なにこれ! すごい!」
「見たことねぇ!」
ポケットの中からは実に嬉しそうな声が聞こえてきた。地球の街とあまり変わらないと思っていたが、二人からするとこちらも珍しいものみたいだ。そうでなかったとしても、地球を見るマゴラが興奮するのと同じなのかもしれない。
マゴラの頬も自然と緩んでいく。友達を喜ばせることができた。その事実がとてつもなく嬉しい。
マゴラはにぎやかな街を進んでいく。二人はポケットの中で押し合いへし合いしながら眺めているみたいだ。二人が満足するまでしばらく歩くのがいいだろう。
羽根つきロボットと鳥の戦いに笑いをこぼしたり、おじさんの宣伝に捕まったり、魚の焼ける匂いに息を漏らしたり、チラシの束を被ったり。
そうしてマゴラは大通りを歩き続ける。二人は変わらず嬉しそうに街を見ているし、その事実にマゴラは嬉しく思う。
「ね、マゴラ! 何か食べたい!」
しばらく進むと、凜太の声が聞こえてきた。
「えっ……どうしようか……」
ポケットを見ると、凜太がマゴラを見上げている。マゴラは唇を噛んで視線を上げた。鈴子や凜太の大きさでも食べられるサイズの食べ物。視線を周りに巡らせる。今いる人民街の通りは一番大きなもので、様々なものが売られている。二人が喜ぶものを買わなければならない。だが店も人も多すぎて、どこをどう見ればいいかわからない。
「こんにちは!」
「うわっ」
すると急に視界に何かが映りこんでくる。一歩後退すると小型ロボットだとわかった。女性をかたどったもので、背中の羽を揺らしてホバリングしている。
「ポップンわたあめ、お一ついかが?」
まるで本物の人間かのように微笑み、インプットされた宣伝文句を言う。足の部分で掴んでいる商品のかごをマゴラに見せてくる。そこにはポップンわたあめの写真がプリントされた袋が詰まっている。
ポップンわたあめは最近はやっているお菓子だ。ポップコーンのような小さなサイズのわたあめで、一袋で様々な味が楽しめる。
「……えっと、一つください」
「はぁい! 三十ミルね!」
ロボットのお腹部分が薄く開く。マゴラは財布を取り出し、硬貨をロボットの隙間に投入する。そして一つ商品を受け取る。ロボットは笑顔でお礼をすると華麗に去っていった。
「マゴラ、なぁにそれ?」
「お菓子だよ。公園にでも行こうか」
「やった! お菓子だって!」
「はやく食べたい!」
鈴子と凜太がわいわい騒ぎだす。
そんなポケットの中の会話に微笑みながらマゴラは公園に行った。ブランコや滑り台など、昔ながらの遊具が並ぶ小さな公園だ。今のところ人影はない。そこのベンチに座り、鈴子と凜太をポケットから膝の上に移す。
マゴラは袋を開け、適当に取り出した紫色の一粒を鈴子に渡した。凜太には黄色の一粒を渡す。大きさは無理なく食べきれそうに見える。
「いっただき!」
早速凜太が大きく一口かじった。
「うまい! 超うまい!」
鈴子も負けじとそれに続き、すぐに「美味しい!」と漏らしていた。マゴラもわたあめを食べながら、二人の様子を見つめる。
「味違う? オレ、バナナ!」
「あたしさつまいも!」
「鈴ちゃんのも食べたい」
「じゃあ交換こ!」
二人は仲良さげにわたあめを交換して、また美味しいと何度も言っている。その瞳はキラキラと輝いていて微笑ましかった。太陽の光を反射して、よりその輝きが増している。赤い方の瞳なんて、まるでルビーみたいだ。マゴラの茶色の瞳とは全然輝きが違う。
「……二人の瞳、綺麗だね」
「……え?」
食べるのをやめて見つめてくる二人。ますます瞳がよく見えて、思わず目を細める。
「赤色の目、珍しいよね。ルビーみたいに綺麗だ」
「……そんなこと、ないよ」
鈴子が暗い声を放つ。そしてごまかすかのように残りのわたあめを口に詰めた。凜太はちょうど最後の一口を飲み下したところだ。
「オレたちの目、汚いよ。この目のせいで、どこにも行けない」
「ママにもパパにも、きっと迷惑かけてる……」
「凜太、鈴子……あの……」
「あれぇ? マゴラくんじゃーん!」
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